株式会社いつつ

連載:神戸新聞「随想」 2017年5月11日

「玉」を味わう時間なし

中倉 彰子

将棋は戦のゲーム。狙うは王将、つまり相手の大将の首だと思っている人が多いのではないでしょうか。しかし、将棋で狙うものは「相手の大将の首」ではありません。

駒は玉(王)、飛、角、金、銀、桂、香、歩の8種類。そのうち、「玉」は「ぎょく」と読み、宝物を意味します。その他も宝物を表している駒が多くあります。そして相手の1番光り輝く「宝玉」を先に取った方が勝ちとなる将棋は、実は「宝物のゲーム」といもわれます。

さて、かくいう私の職業は、将棋の女流棋士です。2015年3月に現役を退いて以降、同10月に、「子どもたちにもっと将棋や日本伝統文化の魅力を伝えたい!」と一念発起し、「いつつ」という会社を神戸に立ち上げました。しかし、幼い頃からずっと将棋だけを見てきた私。新しいステージでは右も左も分からないことだらけ。数々の未知の局面を、将棋で培った持ち前の「考える力」を生かして乗り越えようとするものの、現実は「読み通り!」とはいかず、毎日慌ただしい時間を過ごしています。

そして、仕事以上にもっとバタバタしてしまう時間は、家族と過ごす朝です。目下バレーボールに夢中の長女に、マイペースな次女、甘えん坊の末っ子長男と3人の子どもがいて、「早く起きなさ〜い」から始まり、朝食、着替え、歯磨きと時間との戦い。朝は子どもたちを笑顔で送り出したいと思っているのに、つい「早くしなさい!」と急かしてしまいます。こちらもなかなか「読み通り」には進みませんね。

どうやら今日も私の宝物たちは、朝食の「目玉焼き」の「玉」をゆっくり味わう時間はなさそうです(笑)。

大事な玉をゆっくり味わえない忙しい朝。
大事な玉をゆっくり味わえない忙しい朝。

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この記事は、神戸新聞「随想」にて、中倉彰子が寄稿したものと同じ内容のものを掲載しております。
:『神戸新聞』2017年1月7日 夕刊

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この記事の執筆者中倉 彰子

中倉彰子 女流棋士。 6歳の頃に父に将棋を教わり始める。女流アマ名人戦連覇後、堀口弘治七段門下へ入門。高校3年生で女流棋士としてプロデビュー。2年後妹の中倉宏美も女流棋士になり初の姉妹女流棋士となる。NHK杯将棋トーナメントなど、テレビ番組の司会や聞き手、イベントなどでも活躍。私生活では3児の母親でもあり、東京新聞中日新聞にて「子育て日記」リレーエッセイを2018年まで執筆。2015年10月株式会社いつつを設立。子ども将棋教室のプロデュース・親子向け将棋イベントの開催、各地で講演活動など幅広く活動する。将棋入門ドリル「はじめての将棋手引帖5巻シリーズ」を制作。将棋の絵本「しょうぎのくにのだいぼうけん(講談社)」や「脳がぐんぐん成長する将棋パズル(総合法令出版)」「はじめての将棋ナビ(講談社)」(2019年5月発売予定)を出版。

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