株式会社いつつ

連載:全国将棋道場巡り 2017年3月30日

指導者の役割は初心者に楽しさを伝えること〜プチ・サークル活動新津「将棋」〜

中倉 彰子

女流棋士中倉彰子(以下彰子)が全国の将棋教室・道場を訪問する「全国道場巡り」。今回は新潟県新潟市にあるプチ・サークル活動新津「将棋」にやってきました。取材に応じてくれたのは、同サークルで将棋の指導を行う新井高栄さん(以下新井さん)と和泉功さん(以下和泉さん)のお二人。地域ボランティアという枠組みの中で、ほぼ無償でありながらも子どもたちへの将棋普及に努めることの思いや問題点についてお話を伺いました。

今回は新潟まで行ってきました。
今回は新潟まで行ってきました。

子どもたちの地域交流の拠点として

子どもたちから90歳の方まで、将棋を通じた地域交流が行われています。
子どもたちから90歳の方まで、将棋を通じた地域交流が行われています。

彰子:「プチ・サークル活動新津『将棋』を立ち上げたきっかけなんですか?」

和泉さん:「平成14年に、新潟県の全小学校において、土曜日が完全休校になりました。そこで新潟の地域活動の一環として、『プチ・サークル活動』が小学生の土曜日の活動の場として提供されることになったのですが、将棋は数あるサークルの活動中の一つです。他にも手芸など様々なサークルがあります。」

新井さん:「実は、プチサークルができる前にも2人で子どもたちに将棋の指導をしていたのですが、私たちが将棋を教える拠点は今のところで3箇所目。最寄りの駅から近い場所になったことで皆さん集まりやすくなりました。」

彰子:「確かに。とても賑わっていますね。お二人とも以前から子どもたちの指導をしていたということですが、元々子どもへの将棋普及に興味をお持ちになられていたのでしょうか?」

新井さん:「私の場合は、ずっと自身が道場に通っていたのですが、長年道場に通いつめるうちに、ひたすら対局するだけではもの足りなくなり、子どもたちに教えたいと思うようになりました。そこで将棋普及員の資格を取り今に至っています。」

和泉さん:「私も小さい頃から将棋をしていたにはしていたのですが、どちらかというと囲碁の方をどっぷりしていました。私が将棋を再開したのは60の定年を過ぎてからで、そこから将棋世界を読むなどして本格的に将棋の勉強をするようになりました。今76歳になって、未来のある子どもたちに将棋を教えることはとても楽しいのですが、特養ホームなどで自分と同年代の人たちと指すこともありますよ。」

彰子:「76!?それはすごいですね。」

和泉さん:「そんなことありませんよ。あちらにいらっしゃる方は92歳。私よりずっと先輩なんです。」

彰子:「ほぉ〜素晴らしいですね。では、ここは地域の方と子どもたちの交流拠点となっているわけですね。ちなみに、こちらでは何名くらいのスタッフがいらっしゃるんでしょうか?」

教室運営支えるボランティアスタッフと子どもが楽しむための小さな工夫

手作りのリーグ表を確認する子どもたち
手作りのリーグ表を確認する子どもたち

和泉さん「私たちも含めて大体5名くらいでしょうか?しかしながら、私たちもボランティアなので常時5人のスタッフがいるというわけではなく2、3人で子どもたちを見なくてはいけない時もあります。」

彰子:「これだけお子さんがいると2、3人だけでは大変じゃないですか?」

和泉さん:「一人ひとり指導していると手が足りないので、例えば大盤の周りに子どもたちを集めて定跡の解説をしたり、詰将棋の問題を解いてもらったりしています。確かに大変といえば大変なんですが、ボランティアで運営しているので手伝いに来てもらえるだけでもとてもありがたいと思っています。私もたまに用事などで来れないこともあるのですが、新井さんはほぼ毎週指導してくださっていて、ほとんど休みがないも同然で少し心配なくらいなんですが。。」

新井さん:「私はいろんな子どもたちと将棋が指せてとても楽しいですよ」

彰子:「プチサークルは年会費3000円で何度でも来ることができると伺っています。親としては3000円で土曜日の午前中に子どもを見てもらえるというのはとても助かるとは思うのですが、プチサークルの運営は大変ではないでしょうか?」

新井さん:「父兄からもう少し協力してもらってはどうかという議論が出たことがないではないのですが、地域活性の一環としてこの活動を行っている、市民からお金を取るわけにはいかないという話になりました。」

和泉さん:「とはいえ、プチサークルの活動はボランティアスタッフさんの善意で成り立っているというのが現状です。継続してきてもらうためには彼らのモチベーションを維持するような施策も必要かと思うのですが、2014年の立ち上げ以来今でもこのサークルを続けられていることは改めてすごいことなんだと実感しています」

彰子:「限られた予算の中では、将棋道具や教材などを調達するのも一苦労ではないでしょうか?」

新井さん:「詰将棋の問題やリーグ表、手合いカードなどを手作りにしたり、些細なことなんですが、レベル別のリーグで頑張った子どもたちには図書カードを送るなど予算がない中でもできる小さい工夫というのはたくさんあるように思います。」

和泉さん:「実はここで使っている道具類は全て文科省の伝統文化子ども教室に応募して揃えたものです。書類手続きなどが大変でしたが、もう10年以上大切に使っています。ですので、いつも将棋の指導を終える時には子どもたちにちゃんと数を数えてから将棋の駒をしまうようにと口すっぱくいっているんです。」

棋力と心が成長するまで

将棋の棋力が上がるにつれ子どもたちが落ち着いて指すようになる
将棋の棋力が上がるにつれ子どもたちが落ち着いて指すようになる

彰子:「日頃将棋の指導をする上で心がけていることはありますか?」

新井さん:「やっぱり将棋を楽しんでもらうことが1番だとは思うのですが、子どもたちに将棋が楽しいと思ってもらうまでのサポートが、私たちが1番果たすべき使命なんだと思います。実は私が子どもへの将棋の指導を始めた頃、生徒の数はまだ7、8人だったのですがとても騒がしくてどう教えていいものやら全くわからなかったんです。しかしながら、よくよく考えてみると、子どもたちが将棋に集中できなかったのは、まだ初心者で将棋の面白さに全く気付いていなかったからなんです。そりゃ子どもにしたら興味のない将棋よりも友達とおしゃべりしていた方が楽しいですよね。そこで、子どもたちが将棋を好きになるまで根気強く教えるようにしました。」

彰子:「確かに将棋の本当の面白さが分かるようになるのはある程度戦略が使えるようになってからですよね」

新井さん:「まだ子どもが落ち着いて将棋を指せないうちは、和泉さんのように礼儀作法を重んじてしっかり子どもたちに指導してくれる方の存在がありがたいです。将棋の棋力がある一定レベルまで到達すれば、子どもたちは自然と落ち着いて将棋を指してくれるようになり、正直なところ、ある一定の棋力まで到達すると子どもたちは自分で本を読んだりアプリをするなど学習するようになるので、そこまでこればもう私たちの指導は必要ありません。」

和泉さん:「新井さんは棋力が上がるにつれ子どもたちの態度も落ち着くとのことでしたが、私は将棋を通じて人間としても成長してほしいので、子どもたちが初心者であっても礼儀作法やマナーについては『口で将棋を指すな』と大きな声を出すなど、厳しめに指導するようにしています。こんなエピソードがあります。ある日一人の少年が私に『10級がほしい』と申し出てきました。そこで、私は『10級を認定する前にまずは私と1局指してから』ということにしました。そして私は将棋を指しながら、級を持つためには、ただ将棋が強いというだけではなく、将棋を始めたばかりの子どもたちに将棋を教えてあげなくてはいけないこと、また将棋以外でもその子達のお手本となるように礼儀作法やマナーもしっかりしないといけないという話をしました。実はその子はどちらかというと騒がしい一面があったのですが、その時はとてもすんなり『はい。』と返事をしてくれたんです。今ではその子はとっても将棋が強くなっているんですよね。」

彰子さん:「なるほど。子どもたちの態度も級位に反映させているんですね。でも、あんまり厳しいと子どもたちが怖がったりしませんか?」

和泉さん:「そうですね、笑。この歳になると将棋教室にくる子どもたちはみんなひ孫のようなもので、厳しいながらも毎回『また来てね』と愛情を込めて接しているつもりです。それを子どもたちがちゃんと受け止めてくれているといいのですが。」

彰子:「プチサークルに来る子どもたちの数や表情を見るときっと伝わっていると思います。今回お話を聞いていて感じたことなんですが、新井さんと和泉さんきっちり役割分担をしつつも相互補完できていて息がぴったりですね(^ ^)」

取材後記

プチ将棋サークルに行くと、さっそく新井さんと和泉さんが入り口で出迎えてくれました。教室の中には沢山の子どもたちがいて、高学年のお子さんは、教室の奥で対局をし、低学年や小さめのお子さんは、スタッフの方がついて、詰将棋などに取り組んでいる様子でした。

今回、運良く保護者のママさんお一人にお話を聞くことができたのですが、「お兄ちゃんが将棋が好きなので、弟も一緒に初心者教室に来ています。まだ幼稚園ですが、将棋を始めてから、漢字にも興味がわくようになったのが、嬉しいです。」とのことでした。将棋というと駒の文字が漢字で書かれているため、「難しそう」とか「複雑そう」と小さい子どもを持つママさんたちには敬遠されがちなんですが、こうして、将棋をきっかけに漢字に興味をもってもらえるなんてとてもいいことだなぁと思いました(^ ^)

また、90を超えた人生の大ベテランの方から小学生まで地域の方たちが、将棋を通して一緒になって交流している場面がとても印象的でした。将棋はこんな風にして、次の世代へと受け継がれていくんですね。

ちなみに、新潟は、私の父の実家があるところです。小さい頃は毎年夏休みに、家族みんなで遊びにいきました。久しぶりに新潟に行き、懐かしい気持ちになりました。

道場データ

道場名称 プチ・サークル活動新津「将棋」
場所 新潟県新潟市秋葉区新津本町1丁目2-39
営業時間

毎週土曜日10〜12

こちらのサークルでは「はじめての将棋手引帖」を使用していただいています( ´ ▽ ` )ノ

いつつHPに内にある将棋教室・道場検索では全国の将棋教室・道場を紹介しています。

この記事の執筆者中倉 彰子

中倉彰子 女流棋士。 6歳の頃に父に将棋を教わり始める。女流アマ名人戦連覇後、堀口弘治七段門下へ入門。高校3年生で女流棋士としてプロデビュー。2年後妹の中倉宏美も女流棋士になり初の姉妹女流棋士となる。NHK杯将棋トーナメントなど、テレビ番組の司会や聞き手、イベントなどでも活躍。私生活では3児の母親でもあり、東京新聞中日新聞にて「子育て日記」リレーエッセイを2018年まで執筆。2015年10月株式会社いつつを設立。子ども将棋教室のプロデュース・親子向け将棋イベントの開催、各地で講演活動など幅広く活動する。将棋入門ドリル「はじめての将棋手引帖5巻シリーズ」を制作。将棋の絵本「しょうぎのくにのだいぼうけん(講談社)」や「脳がぐんぐん成長する将棋パズル(総合法令出版)」「はじめての将棋ナビ(講談社)」(2019年5月発売予定)を出版。

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