全国将棋道場巡り

2019年2月14日

将棋を教えられるようになるための指導こそ真の将棋普及〜十三棋道舘道場

全国津々浦々、女流棋士の中倉彰子といつつのスタッフが様々な将棋教室・将棋道場を訪れる「全国将棋道場巡り」。今回は大阪市にある十三棋道舘道場にやってきました。インタビューしたのは、同道場の席主であり、日本将棋連盟棋道師範および、大阪府支部連合会長を務める北川茂さん(以下北川さん)です。これまで、42年間、約1万数千人の指導歴の中で培った北川さん独自の将棋指導論について詳しくお話をうかがいました。

これまで1万数千人の指導をしてきたという北川さん。
これまで1万数千人の指導をしてきたという北川さん。

将棋教室・将棋道場を運営するために必要な資質とは

棋道舘を始められたきっかけはなんですか?

北川さん:当時私は脱サラをし、実はうどん屋さんになるつもりだったのですが、なかなかいい場所がみつからずふらふらしていました。そんなとき、駅近の場所でたまたま空きテナントの看板を発見しました。実際には調理場や客席などの問題もありうどん屋を開店するには至らなかったのですが、家族の目もあり、とりあえずそこで何かを始めようと開席したのが棋道舘です。本格的に始めたのは高校生の頃とはいえ、小さい頃から知っていたので、将棋教室なら当時の自分でもできると考えたのです。

うどん屋さんを開店するつもりがなかなかいい場所が見つからず結局将棋道場を開席。移転して今の場所に。
うどん屋さんを開店するつもりがなかなかいい場所が見つからず結局将棋道場を開席。移転して今の場所に。

もともと将棋を教えたかったというわけじゃないんですね。それでも、昭和52年の開席から42年、継続してこられたというのはとてもすごいことだと思います。

北川さん:おっしゃるように、私は元々将棋教室の先生をしたかったわけではありません。ですので、いつでもこの道場を誰かに引き継いでいいと思っていたのですが、棋道舘を任せても大丈夫と思えるような人材に今まで巡り会うことができず、気づけば42年も経ってしまったというのが実情です。

棋道舘を任せても大丈夫と思えるような人材というのは、具体的にはどのような人物なのでしょうか?

北川さん:将棋に関する知識の他、経営能力や会計などの事務処理のスキル、そして指導力と人間的魅力が必要になります。ただ将棋が好きだから、将棋が強いからというだけでは、将棋教室や道場の運営は難しいと考えています

日本一厳しい将棋道場

経営者としての意識をお持ちだからこそ、北川さんは42年もの間道場を守り続けてこれたんですね。ところで、42年も将棋教室・道場を運営していると、たくさんの生徒さんを指導されたんじゃないですか。

北川さん:そうですね。厳密な数字は覚えていませんが、大人子どもを合わせると約1万数千人ほどになります。ただ、実は私の将棋教室、恐らくですが日本一厳しいので、途中で離脱する人も少なくないんですよ。

-どれくらい厳しいですか?

北川さん:1万数千人のうち、初段までいけたのはたったの700名ほどです。といのも、うちは降級や降段のシステムがあり、細い規定は色々あるのですが、在籍されているほとんどすべての方が、降級、降段の経験者で、15戦の出来不出来で段級位が昇降いたします。

日本一厳しい昇給規定の中、真剣に将棋に取り組む棋道舘の会員たち
日本一厳しい昇給規定の中、真剣に将棋に取り組む棋道舘の会員たち

-級認定については、どの指導者も悩んでいるポイントだと思います。あまり厳しくすると子どもたちが将棋を嫌いになってしまいませんか?

北川さん:棋道舘は決して大規模な道場ではないので、すごく厳しいかすごく緩いかのどちらかに振り切らないと道場として特色が出せません。結局私は2つの選択肢の中から、厳しくすることを選んだわけですが、おっしゃるようにどんどん級が上がるようにしてあげた方が子どもたちにとっては楽しいし、モチベーションの維持にも繋がると思います。

ただ、楽しいだけの将棋では、いずれ子どもたちは将棋におもしろさを感じなくなってしまいます。確かに厳しすぎることでたくさんの人が去っていきましたが、たとえもう1つの選択肢をとっていたとしても、遅かれ早かれ、人が減るという同じ現象を引き起こしていたに違いありません。どうせ人が減るなら、厳しい環境の中でも頑張れる真剣な子たちに残ってもらいたいと考えたのです。

なるほど。棋道舘では阿部隆八段や畠山成幸七段、畠山鎮七段、斎藤慎太郎王座といった専門棋士をはじめたくさんの強豪が通っていたとのことですが、皆さん厳しい環境の中でも真剣に将棋と向かい合い強くなったんですね。

強い人材ではなく、将棋を教えられる人材を育てる

北川さん:ただ、確かに棋道舘に通っていた者が専門棋士になるということもありますが、決して誤解して欲しくないのは、私自身、子どもたちに強くなってほしいなんてこれっぽっちも思っていません。ましてや、強くなるための指導もしていません。

ではどのような指導をされているのでしょうか?

北川さん:私は子どもたちに、強くなってほしいのではなく、将棋を教えられるようになってほしいと考えています。要するに、私の将棋の指導は、将棋の指導者の育成のようなものです。

強くなるための指導ではなく、将棋を教えられるようになるための指導をしていると話す北川さん
強くなるための指導ではなく、将棋を教えられるようになるための指導をしていると話す北川さん

強くなるための指導と将棋を教えられるようになるための指導は具体的にどのように異なるのでしょうか?

北川さん:強くなるだけなら、勝つためのテクニックや技の使い方を教え、それが使えるようになるまでただ指してもらえばいいのですが、将棋を教えられるようになるには、それらの技やテクニックがなぜ有効なのかを理解し、そしてそれをきちんと伝える力を持たなくてはなりません。将棋が強いから教え方が上手いかといったらそうじゃないですよね。

ではなぜ指導者を育てたいと考えるのでしょうか?

北川さん:努力さえすれば誰でも専門棋士になれるくらい強くそうなるかというとそうではありません。ほんの一握りの人材しか専門家になれないのに、強くなることを目標にするというのは非常に不毛なことのような気がします。それに、単純に棋力があがったところで、嬉しいのは自分だけなのです。そこそこ強くなるだけで終わるのは自己満足にすぎません。

その一方で、将棋や将棋の魅力を人に伝えられるようになれば、そこからまた将棋の輪を広げることができます。昔の私は、それこそ、いかに強い生徒を育てることができるのかが指導者としての力量であると考えていましたが、本当の意味での将棋普及について追求していくと、その考え方は間違っていると気づききました。

個別指導で指し手一手一手に細かいケアを

個別対応することで1手1手細かいケアができる
個別対応することで1手1手細かいケアができる

将棋の輪を広げるというのは、将棋教室の大切な使命だと思います。他に子どもたちを指導する上でこだわっていることってありますか?

北川さん:形式的なことでいうと、開校当初から、ずっと個別指導という形でやっています。教室の経営を考えれば、できるだけたくさん生徒さんをとって大人数で将棋教室をした方がいいのでしょうが、私の場合は1度に教えるのは多くて3人までと決めています。

例えば、ピアノでいい演奏をするには、頭で楽譜を覚えているだけではダメで、実際に弾いてみながら、1つ1つの音に対してケアをしていかなくてはなりません。将棋もそれと同じで、考えて指せるようにするためには、頭で理解するだけではなく、指しながら指し手1つ1つ見てあげる必要があると考えています。個別指導であれば、講師と生徒で質疑応答がちゃんとできるので、生徒が初心者でも上級者でも細かいケアがちゃんとできます

確かに個別であれば生徒ひとりひとりに合った指導が受けられますよね。ところで、今どれくらいの生徒さんがいらしゃるのでしょうか?

北川さん:道場の登録が約250人で、そのうちレッスン生が45人、うち子どもが25名です。

最善手を選ぶ選択技術は一生役に立つ

駒の動かし方が分からないやお子さん未就学のお子さんにも対応してらっしゃるんですか?

北川さん:もちろんです。どのような生徒さんでも対応できないとプロの指導者とは言えないです。私がお子さんの入会を認めるかどうかの条件はただ1つ、1〜5の足し算・引き算の概念が理解できるかどうかです。年齢がいくつであっても、文字が読めなくても、ましてや将棋のルールについて知らなくても全然構わないですよ。

HPでも拝見しましたが、将棋は算数のゲームって書いてましたね。やっぱり将棋をすると算数ができるようになるんですか。

北川さん:できるようになるかは分からないですが、将棋が算数の訓練になるのは確かです。将棋はいかに相手よりも早くプラス1を作るかですので。あと、算数からは少し離れますが、自分にとっての最善を見つける練習ができるというのも将棋の教育的意義の1つだと思います。例えば、朝着ていく服を選んだり、レストランで何を食べるかを考えたり人生は選択の連続です。子どもたちには、たくさんある選択肢の中から、失敗を減らし、1番悔いの残らない道を選べる力を養って欲しいと考えています。

先ほども申し上げたように、将棋で強くなれるのはほんの一握りの人材です。しかしながら、このような選択技術は、誰でも身につけられて、そして一生役に立つ技術だと思います。

編集後記

取材日当日、親子でで北川さんのレッスンを受けに来られているお母さんと娘さんがいました。取材では、日本一厳しい将棋道場とのことでしたが、お子さんの方に「この駒をここに置いたら、この駒に目隠ししているようなものだよ。前に進めないよね。まぁ先生はその方が嬉しいけどね、笑」と優しく話しかける北川さんの姿は、私の目には日本一優しい将棋教室の先生に映りました。

もともと、うどん屋さんになりたかったという北川さんは、今度は将棋の歴史を研究する研究者になりたいそうです。今度こそ、夢をかなえるためにも、時間をかけて北川さんが蒔いてきた将棋の種が身を結び、生徒たちの中から棋道舘を任せても大丈夫と思えるような人材が育まれ、42年の歴史がさらに未来へと紡がれるといいなぁと思いました。

使い込まれた道具から棋道舘の長い歴史を感じる
使い込まれた道具から棋道舘の長い歴史を感じる
道場名称 十三棋道舘道場
場所 大阪市淀川区十三東2-6-2
営業時間

13:00〜21:00

詳細はHPにて要確認

定休日 毎週火曜日

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この記事の執筆者金本 奈絵

株式会社いつつ広報宣伝部所属。住宅系専門紙の編集記者を経て現在に至る。

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