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将棋を学ぶ 2018年1月18日

特別連載「将棋のお仕事百科」③中継記者の実は…

君島俊介

20年以上続いているネット中継

近年、将棋が注目されて、テレビやインターネットで対局を観戦する人や機会が増えたように思います。

私が将棋界に入り、ネット中継に携わるようになったのは2006年。そのころには現在の中継の基礎ができていました。当時の中継記者は5人程度でしたが、現在は東西合わせて20人前後とだいぶ増えて、状況も変わりました。

しばらくは各棋戦別々でネットの中継や配信をしていました。私が当時担当していたのは、順位戦や王将戦、日本将棋連盟が担当していた竜王戦などです。

インターネットによる棋譜中継の起源は、かなり古いです。20年以上前には、すでにネット速報がなされていました。「Windows95」や「テレホーダイ」などの時代ですね。まだネットがそれほど一般的ではなかったころに、まさしく0から環境を整えてこられた方がいて、現在があるわけです。

王位戦では2010年に、中継を担当していた北海道新聞社メディア局が将棋ペンクラブ大賞のWeb中継企画賞を受賞しています。現在、王位戦の棋譜中継は日本将棋連盟が担当しています。王位戦に限りませんが、諸先輩方が将棋に対する情熱や思いを持って、仕事をされてきたことを引き継いでいるのですから、これからもいいものを提示できるようにという気持ちで仕事をしている次第です。

20年以上続くネット中継
20年以上続くネット中継

ネット中継の業務

ネット中継の業務は、棋譜中継による棋譜入力やコメントの更新、ブログでの記事作成です。タイトル戦の場合は、二人体制で片方が棋譜中継担当、もう片方がブログ担当となります。

棋譜担当は棋譜を入力し、控室の検討内容や対局者の様子を記していきます。ネット中継は紙媒体よりもたくさんのことを書けます。それはいいことですが、煩雑になりすぎる恐れもあります。私が中継を担当しているときは、自分なりに情報を整理する時間も作っています。また、一観戦者として、棋士に質問する内容やタイミングも考えます。

ブログ担当は、写真を中心に対局を紹介していきます。タイトル戦は地方で開催されることが多いですが、棋譜中継だけだと、将棋会館での対局とあまり変わらないですよね。それではあまり面白くありません。

近年では「将棋めし」も注目されているように、対局の内容や対局者の動きだけでなく、ブログで対局地やその周辺、食事などを紹介することも大事な仕事になります。そうしたことで、将棋に興味や関心を持っていただける一助となればと思っています。

環境の変化

最近では少なくなりましたが、以前は地域によってはネットにつなぐこと自体が一苦労ということもありました。現在はインターネットがより一般的に普及していって、環境としてだいぶ安定しています。

環境というと、対局周辺もここ数年で変わりました。以前は棋譜を取ったり、消費時間を調べたりするため、1時間に1回程度で対局室に入っていました。すべての対局室に天井カメラがあったわけではないですし、モニターからでは消費時間がわからないからです。リアルタイムで中継できないものは、棋譜をコピーしたり書き写したりして、それをパソコンに入力していたのです。

対局室は緊迫感があって、入るのに勇気がいったものです(特に終盤の秒読み)。対局室では棋士の表情や動きも見られます。長居はできませんが、数十秒で見たものを棋譜コメントに記すことで、リアルタイムで中継できない分を工夫して補っていました。

2014年度から記録係がタブレットで棋譜入力するようになりました。タブレットから中継記者のパソコンに指し手や1手ごとの消費時間の情報が転送されて、モニターに映っていない対局もリアルタイム中継できるようになったのです。順位戦など複数の対局でもすべてリアルタイムで中継できますし、棋譜の写し間違いや入力間違いによるミスが減って、観戦の満足度が上がったかと思います。

記録係がタブレットを使うようになり、対局室にもコンピュータが入ってきたわけですが、伝統文化と呼ばれるものでも時代に合わせて柔軟に対応していくのは大事と考えます。江戸時代までさかのぼってしまうと、駒台が使えませんし(当時は駒台がなかった)。

将棋は体力、中継も?

「将棋は体力」という言葉があります。藤井聡太四段の師匠の師匠である板谷進九段によるものです。人が指す以上、技術だけでなく気力や体力も大事なのですね。

ネット中継は対局を取材するので、普段でも1日がかりですし、2日制のタイトル戦では3泊4日です。タイトル戦では対局前日に前夜祭の取材もありますし、終局後は感想戦の様子や内容もアップします。そうしてみると、ネット中継の仕事も体力がいるというのが実感です。

あるときに羽生善治竜王の中継や観戦記の仕事が重なったことがあります。1週間ほど続けて対局の取材をしましたが、こちらのほうが先にバテました。羽生竜王はしっかり対局に勝たれ、対局翌日は疲れを見せない。体力や健康管理に感心させられたものです。

忘れられない対局

気が付くと、中継業務に携わるようになって11年以上になりました。思えば遠くへきたものです。

初めてネット中継を担当したのは、2006年6月6日の第65期C級1組順位戦1回戦。順位戦の開幕戦ですから、どの対局も力が入ります。その中でも北島忠雄七段と中座真七段の対局は夜に入って千日手。その指し直し局は、日付変わって午前2時15分に終局。

順位戦は遅くまでかかることは知っていましたが、聞きしにまさる長丁場の熱戦。最初にこういう経験をすると思わず、大変な世界だと感じたものです。

その数日後には、棋士の集まりがあったらしく、羽生善治竜王、渡辺明棋王、森内俊之九段、木村一基九段らそうそうたる面々が控室に立ち寄って、B級1組順位戦の将棋を検討する場面も。二つの出来事は、あまりにもインパクトが強すぎて忘れられませんし、将棋界でやっていく大きなきっかけになりました。

棋士が作り上げていく棋譜や戦いの歴史は続いていきます。これからも棋士の魅力を伝えていけたらと思う次第です。

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この記事の執筆者君島俊介

1983年生まれ。栃木県出身。小学生のころに将棋を覚え、アマチュアプレーヤーとして現在にいたる。大学卒業後の2006年6月からスタッフとしてネット中継の業務に携わる。2009年からは新聞や雑誌などで観戦記も執筆。

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