株式会社いつつ

連載:日本の伝統文化のいつつ星を探して 2015年10月26日

「作品を作っているわけじゃない」江戸指物師戸田敏夫さんインタビュー

中倉 彰子

江戸指物師の戸田敏夫さんを訪問しました。江戸指物は経済産業大臣指定伝統的工芸品の指定を受けている、伝統的な工芸品です。

指物とは、板と板を指し合わせるところからきているそうです。将棋も対局をすることを「指す」といいますので、「指す」という言葉に共通点があります。工房を探していたとき、玄関をでたところに木がたくさん並べられている場所を発見。「ここかな!」と見つけることができました。

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戸田さんが、この道に入ったのは、小学6年生の時。隣に家が建った棟上げが美しく、感動したことがきっかけで、大工になろうと決心。その後、幾つかの縁が重なり、江戸指物への道に入ったそうです。

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18歳のときに、千葉から東京に住み込み、親方のところで修行されたそうです。将棋にも伝統的に「内弟子」といって師匠の家に住み込んで修行する、ということがありましたが、住宅事情の変化などから、最近では、内弟子というのは聞きません。将棋界には師弟制度がその伝統の名残として残っています。

私が、「戸田さんの作品は・・」と聞いたところ、「私たちは作品とは言わないのですよ。生活の中で使うものを作るので製品と呼びますよ。」とのこと。趣味のために作っている作品とは違うという職人さんの想いを感じたと同時に、軽率な発言を反省しました。

壁にかかっている大小の鉋の多いこと。その中に可愛らしい、かたつむりのような鉋がありました。触ってもいいですよ、といってくださったので、ちょっと拝借。細かいところもこの鉋で丸いカーブ曲線を作っていくのですね。感心して、鉋をもどそうとしたときには、「ごちゃごちゃに入っているようにみえるけど、場所があるんですよ。」とおっしゃっていました。歯があたらないようにしまってあったのです。なるほどー。失礼しました。

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戸田さんは、桑にこだわっていらっしゃいます。桑という木はとても堅く非常にクセもある木なんだそうです。でも、そんな桑だからこそ、湿気や空調といった木にとって大敵な環境でも、歪むことなくその姿を残してくれるそうです。

実際に削るところも見せていただきました。大きな鉋は重たそうです。桑を削るには、すごく力が必要なのですね。削られたものから薄っぺらいものが、シュシュッとでてきます。こんなにじっくりみたのは初めてです。そして、今度は、小さめの木片で、小さな鉋を削るとこも見せてくださいました。

その後は、磨きの部分。これも伝統的な手法で行われます。「サンドペーパーが、今は良いものはあるけど、トクサと椋の葉をつかう。これを使って磨くのも技術がいる。トクサを平らにするのは、今でも難しい。」とのこと。トクサを水につけて、広げて平にして、それを乾かして・・。と手間暇がかかっています「こういうのを使えればうまく磨けると思う人もいるけど、トクサの葉を使えばいい、というものではない。」というお言葉の中にも、職人のプライドが見え隠れして、かっこいい。

トクサの後は、椋の葉。この葉を取りに山にでかけることもあるそうです。この「葉をつかう」というのは先人の知恵とおっしゃっていました。こういう伝統的な知恵を大切につなげているのだなと思いました。磨いたところは、マジックをみているように(?!)つるつると光輝きだしました。この変化に驚きました。

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ひとつひとつの製品を作るのに、何工程もの伝統的な作業が入っていることを知ることができました。戸田さんは6、7年かけて製品をつくることもあるそうです。お店でお金を払ってすぐに商品をもらうことに慣れている世の中にあって、それだけ長く待つ、待ってもいいから欲しいと思える価値を生み出している戸田さんの腕ってすごいんだなと感じました。

戸田さんはサンドペーパーではなく、手間暇をかけて伝統的な作業で丁寧につくっています。出来上がりももちろん大事なのですが、そのプロセスに価値を生み出しているところに、日本の伝統文化の価値が眠っているような気がしました。

DSC_0298 印鑑入れ。桑でキラキラしている箱をみせてくださいました。桑の模様がきちんと合わさるように、計算されつくしています。

<中倉彰子の訪問後記>

「江戸指物師」のお仕事を事前に、本や写真で調べていましたが、戸田さんがお話しになるお言葉、また実際に道具の数々や、鉋で削るところ、椋の葉で磨く姿を、間近で拝見し、とても感動しました。やっぱりホンモノの伝統工芸の技を実際の目でみるってすごいなと思いました。

台東区の教育委員会で、戸田さんは、子供たちへ日本の伝統工芸の講義もしているそうです。鉛筆立てを作ったとか。子どもたちも、こうしたホンモノに出会えることで、得るものも多いことと思います。

また戸田さんは、伝統的工芸品産業振興協会の副会長を務めている方ですので、こうした取り組みも、次世代の子どもたちにつなぐことを考えてのことだと思います。戸田さんの「日本の伝統を次世代に伝えていく」想いを感じた今回の訪問でした。

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写真:ちょうど訪問前に「伝統工芸青山スクエア」に行ってきました!スクエアでは、日本の伝統工芸品を海外の方も興味深そうに見入っていました。

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日本の伝統工芸に携わっている名工の方々を中倉彰子がインタビューするこのシリーズ。

弊社が所有する第74期名人戦第3局の将棋駒の製作者でもある、将棋の駒職人・掬水さん

会津の伝統的な郷土玩具「起上り小法師」を製作している山田民芸工房さんへの訪問記もぜひご覧ください。

いつつのオンライショップ神戸の将棋屋さんいつつでも、木の道具を取り扱っています。

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この記事の執筆者中倉 彰子

中倉彰子 女流棋士。 6歳の頃に父に将棋を教わり始める。女流アマ名人戦連覇後、堀口弘治七段門下へ入門。高校3年生で女流棋士としてプロデビュー。2年後妹の中倉宏美も女流棋士になり初の姉妹女流棋士となる。NHK杯将棋トーナメントなど、テレビ番組の司会や聞き手、イベントなどでも活躍。私生活では3児の母親でもあり、東京新聞中日新聞にて「子育て日記」リレーエッセイを2018年まで執筆。2015年10月株式会社いつつを設立。子ども将棋教室のプロデュース・親子向け将棋イベントの開催、各地で講演活動など幅広く活動する。将棋入門ドリル「はじめての将棋手引帖5巻シリーズ」を制作。将棋の絵本「しょうぎのくにのだいぼうけん(講談社)」や「脳がぐんぐん成長する将棋パズル(総合法令出版)」「はじめての将棋ナビ(講談社)」(2019年5月発売予定)を出版。

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