株式会社いつつ

将棋を楽しむ 将棋を学ぶ 2016年10月19日

将棋駒で9種類の書体を見比べてみよう

金本 奈絵

いつつ将棋教室神戸元町校では、子どもたちにより将棋を楽しんでもらうように、書体の異なる9種類の将棋駒をご用意させていただきました。せっかくなので、いつつブログでそれぞれの駒の特徴について紹介させていただきたいと思います(^-^)

いつつの将棋教室には色んな書体の将棋駒があります。
いつつの将棋教室には色んな書体の将棋駒があります。

1.錦旗

第74期名人戦第3局では錦旗の駒が使用されました。
第74期名人戦第3局では錦旗の駒が使用されました。

いつつの将棋駒といえば、第74期名人戦第3局で実際に使用された駒なのですが、こちらは「錦旗(きんき)」と呼ばれる書体で記されています。

駒づくりは「錦旗」で始まり「錦旗」で終わるというくらい、将棋駒界の中では最もよく知られ、最も親しまれている書体であるといえます。

江戸時代のお城将棋などで知られる将棋三家の一つである大橋本家に伝わる後水尾天皇の書を、「近代将棋駒の祖」と呼ばれる豊島龍山が筆写したのが錦旗の始まりであると言われています。オーソドックスな書体なので、将棋を指したことのある人なら誰もが一度は触れたことがあるのではないでしょうか。力強い太字にとても風格がありますよね。

ちなみに、他の書体と錦旗を最も見分けやすいのが角行の駒です。「角」の字が小さめに、「行」の字が横長に表現されているのが特徴的です。

2.水無瀬

「水無瀬」書体。くるんとなったと金が特徴的。
「水無瀬」書体。くるんとなったと金が特徴的。

次に、「水無瀬(みなせ)」と呼ばれる書体で書かれた駒を紹介します。

過去のいつつブログで「水無瀬」の起源である水無瀬神宮について紹介させていただいたのですが、水無瀬とは能筆家で知られた水無瀬兼成が発明した書体を指します。ゆったりとしつつも、どこかどっしりと構えたような字体が、徳川家康をはじめとした当時の権力者に好まれたというお話は以前も触れさせていただきました。

「水無瀬」の駒をよく見ると王将の「王」の字の縦線の太さや「と金」の「と」の字がくるんと丸くなっていることが特徴ですね。

3.菱湖(巻菱湖)

「菱湖」の書体。ヒゲ付きの文字が独特。
「菱湖」の書体。ヒゲ付きの文字が独特。

続いて紹介するのは「菱湖(りょうこ)」と呼ばれる書体で書かれた駒です。

菱湖とは、「幕末の三筆」と謳われた巻菱湖が完成させたといわれる書体です。流麗な筆致が魅力的で指し手に人気があるといわれる書体の一つです。他の駒との見分け方としては、王将と玉将の違いが玉の有無だけでなく、全く別の書体に見えることが挙げられます。また、「ヒゲつき菱湖」とも呼ばれるように「龍王」や「玉将」、「歩兵」に独特なハネが見られることも特徴的ですね。

4.源兵衛清安

「源兵衛清安」の書体。駒の形に合わせて末広がりになるのが特徴。
「源兵衛清安」の書体。駒の形に合わせて末広がりになるのが特徴。

源兵衛清安(げんべえきよやす)は盤駒の専門店も含めて、現在市販されている中では最もクラシックな書体の一1つであるといわれています。ほとんどの駒師が手掛けたことがあるといわれるほどポピュラーな書体ですが、その起源については「江戸時代から伝わる」以外に自明の事実は判明しておらず、ミステリアスな一面も持ち合わせています。

ちなみに他の書体との見分け方は、バランスよく五角形の駒の形になるように、末広がりに文字が描かれていることです。

5.金龍

「金龍」の書体。武士から始まった書体。
「金龍」の書体。武士から始まった書体。

「金龍(きんりゅう)」というのは、もともと書体名ではなく駒師の号であったといわれています。初代の斉田小源多という武士から二代目甲賀氏治という武士に「金龍」が受け継がれ、この二代目が作った駒が江戸末期に大流行したといわれています。

駒字のハネの部分がややツンツンしているのが特徴であるといわれていますが、個人的にはなかなか見分けが難しい書体のような気がします。ただ、武士から始まった書体だけあって、どこか慎ましさの中に緊張感があるような感じがします。

6.鵞堂

「鵞堂」の書体。流れるような筆致が特徴。
「鵞堂」の書体。流れるような筆致が特徴。

明治時代の書道の大家であった小野鵞堂(がどう)が完成させた書体とされています。しかし、一説では書道家が将棋の駒銘を書いたのはとても不自然なことであると考えられており、先出の豊島龍山が、鵞堂が書いた手本類などをもとに駒銘にしたのではないかと言われています。

ちなみに「鵞堂」の書体は流れるような筆致が特徴的。特に「馬」という時が他の書体と比べて、より流麗な気がします。

7.淇洲

「淇洲」の書体。玉将の点の位置やと金が特徴的。
「淇洲」の書体。玉将の点の位置やと金が特徴的。

「淇洲(きしゅう)」の書体の始まりは竹内棋洲という人物です。当時におけるプロ棋士というわけではありませんでしたが、淇洲は八段に推薦されるほどの棋力の持ち主で、将棋だけにとどまらず政治や文学、囲碁や書、漢詩にも長けていたといわれています。もともと淇洲の祖父が、新しい書体を追求していたのですが、志を果たせず亡くなってしまい、その時に書に堪能な孫の淇洲に「将来名人になる人にこの駒を送ること」という遺言を残したそうです。淇洲はおじいちゃんの遺志を達成したんですね。

ちなみに、淇洲の駒を受け取ったのは関根金次郎七段という人物です。その駒を受け取って以来関根七段は勝ち続け、「淇洲」の駒が「関根の出世駒」となりました。

8.昇龍

「昇龍」の書体。奥野一香が改良を加える。
「昇龍」の書体。奥野一香が改良を加える。

将棋好きで能筆な三味線弾き昇龍斎が考案した書体です。

後に盤駒店「奥野一香商店」を営んでいた奥野一香(店名であり駒師としての号)が、当時駒師と人気を博していた豊島龍山に対抗して、この「昇龍(しょうりゅう)」の書体を改良して、龍山が考案した「錦旗」と同じ書体名で全く別の書体を売り出したとされています。

9.一字駒

とにかく見やすい一字駒。
とにかく見やすい一字駒。

こちらは書体というよりも、王将、飛車、角行、金将、銀賞、桂馬、香車、歩兵といった通常二文字で書かれる駒の文字が、王、飛、角、金、銀、桂、香、歩と一文字で記されていることが特徴的です。見やすいという理由からNHK将棋トーナメントなどテレビ番組での対局などで使われているようです。いつつ将棋教室の神戸元町校でも、まだ漢字を習っていない未就学のお子さんには、それぞれの文字の違いを認識しやすい一字駒を渡すようにしています。駒の文字が読めないと駒の動かし方を覚えるのも一苦労ですからね。

さて、今回のいつつブログでは色んな将棋駒の書体について紹介してきましたがいかがでしたしょうか。同じ文字が書かれているのに、書体によってそれぞれ違った個性があってとても面白いですよね。

いつつでは、将棋のゲームとしての楽しさ以外にも、歴史や雑学などを通じて将棋の奥深い魅力を子どもたちに伝え、体験してほしいと考えています。

いつつの将棋教室に参加される方もそうでない方もぜひ機会があれば色んな駒を見比べてみて、自分のお気に入りの書体を探してみてください(^-^)

参考:
「駒のささやき〜将棋駒の魅力とその世界〜」
「将棋駒の世界」(中公新書)/増山雅人著

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将棋の駒を磨くということ〜駒も心も清らかに〜

将棋のどうぐ

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この記事の執筆者金本 奈絵

株式会社いつつ広報宣伝部所属。住宅系専門紙の編集記者を経て現在に至る。

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