株式会社いつつ

連載:東京新聞「子育て日記」 2017年6月7日

勇気くれた「兄弟子」

中倉 彰子

シンの保育所のクラスに、中学生が職業体験で来てくれています。この取り組みは、中学生のうちからさまざまな仕事を体験し、働くことの大変さと大切さを感じてもらいたいと、府中市と市内の事業所の協力で、二〇〇五年ごろに始まったそうです。園児たちにとっても、お兄ちゃんやお姉ちゃんとの触れ合いは、新鮮でとてもありがたいことです。

。中学生のお兄ちゃんから、前に踏み出す勇気をもらい、子ども大会に出場。」
中学生のお兄ちゃんから、前に踏み出す勇気をもらい、子ども大会に出場。

シンは先日、そのお兄ちゃんと将棋を指したことが楽しくて仕方がなかったみたいで、私に会うなり「ぼく中学生のお兄ちゃんに勝ったんだよ!」と大興奮しながら報告。その一方で、「あーでも、今度もっと強いお兄ちゃんが来るって言ってたなぁ。その人とやって負けるのやだな」と心配もしていました。夫の弟子で、高校生コウタ君が我が家に泊まりに来た時も「保育園で強いお兄ちゃんがきたら、コウタ君いっしょに来てくれる?」と頼んでいました。実はコウタ君は、プロを目指す人を養成する機関「奨励会」に所属するレベルなのです。強力な助っ人を呼ぼうとしているシン。こらこら自力で頑張りなさい(笑)

その後、保育所の職業体験に来たのは、なんとシンのクラスの先生の元教え子だったそうです。そのお兄ちゃんとシンの新旧教え子での対戦になり、シンが勝ったことを先生がうれしそうに話してくれました。多分、お兄ちゃんは本気を出さなかったと思うのですが、こういうことが、子どもにとって大きな自信につながるんでしょうね。

シンの通うクラスでは、将棋は一対一でやるより、チームで対戦する方が多いようです。先日、クラス役員のお仕事で保育園に行った時に少し時間があったので、子どもたちに混じって、チームで将棋を指しました。「ここから先に駒が入ると裏返しにして変身できるんだよ」と言うと「わー!」と歓声が上がったり、同じチームの子が駒を取ると女の子は「やった、やった」と一緒になって喜んだり。その様子を見ていると、こんなふうにワイワイ言いながら楽しむ将棋もいいなぁ、と思いました。

以前は、大会に出るときはお姉ちゃんと一緒に出る団体戦じゃないといやと言っていたシン。でも今は「次の子ども大会には一人で出る!」と宣言しています。中学生のお兄ちゃんたちの来訪は楽しい思い出とともに、前に一歩踏み出す勇気と力をもらう貴重な体験になりました。(プロ棋士)

この記事は、東京新聞にて中倉彰子が連載している「子育て日記」と同じ内容のものを掲載しております。
:『東京新聞』2016年12月16日 朝刊

この記事の執筆者中倉 彰子

中倉彰子 女流棋士。 6歳の頃に父に将棋を教わり始める。女流アマ名人戦連覇後、堀口弘治七段門下へ入門。高校3年生で女流棋士としてプロデビュー。2年後妹の中倉宏美も女流棋士になり初の姉妹女流棋士となる。NHK杯将棋トーナメントなど、テレビ番組の司会や聞き手、イベントなどでも活躍。私生活では3児の母親でもあり、東京新聞中日新聞にて「子育て日記」リレーエッセイを2018年まで執筆。2015年10月株式会社いつつを設立。子ども将棋教室のプロデュース・親子向け将棋イベントの開催、各地で講演活動など幅広く活動する。将棋入門ドリル「はじめての将棋手引帖5巻シリーズ」を制作。将棋の絵本「しょうぎのくにのだいぼうけん(講談社)」や「脳がぐんぐん成長する将棋パズル(総合法令出版)」「はじめての将棋ナビ(講談社)」(2019年5月発売予定)を出版。

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