将棋を学ぶ

2018年5月25日

作者が語る「はじめての将棋手引帖 3巻」制作裏話

将棋にはじめて触れる子どもたちの「分からない」を追求した「はじめての将棋手引帖シリーズ」第3弾がついに発売になりました。
今回は手引帖3巻の発売を記念し、同シリーズの作者である女流棋士の中倉彰子と、3巻の途中より制作に加わった元奨励会三段の荒木隆が、3巻の見どころや、ここでしか聞けない制作裏話を語ります。

制作者が語る手引帖3巻の裏話
制作者が語る手引帖3巻の裏話

今回のテーマは鬼門の定跡

ーついに「はじめての将棋手引帖3巻」が発売になりましたね。今回はどのようなことについて学びますか?

彰子:1巻では駒の動かし方や基本的なルール、2巻では指すための基本的なテクニック、そして今回の3巻では基本的な戦法について学習します。

ー基本的な戦法というと?

彰子:例えば居飛車戦法や振り飛車戦法について、序盤の理想的な駒組み、囲い(自玉を守るためのお城のようなもの)など、いわゆる本将棋の定跡についてです。

ー定跡と聞くとなんだか難しそうな気がします。

彰子:確かに3巻は2巻と比較すると学習内容の難易度が格段に上がったといえます。複雑な手順をいくつも覚える必要があり、実際、ここで将棋が嫌になってしまうお子さんも少なくありません。ただ、2巻までの内容は、主に本将棋を指すための準備段階だったのに対して、3巻以降は「考えながら指す」ということを重点的にやっていくので、内容が難しくなる一方、ここからいよいよ将棋らしく、そして面白くなるといえます(^ ^)

ーなるほど。つまり、はじめての将棋手引帖1・2巻をしてきたお子さんにとって、3巻こそが、もっと将棋を好きになるか、もしくは嫌になるかのターニングポイントというわけですね。

彰子:プレッシャーをかけますね(笑)。でもその通りです。定跡の考え方というのは、指導者にしても「どのように教えるのがいいか」と工夫を凝らすポイントです。その分、教える人の個性が出やすいところといえます。

手引帖の3巻の学習内容がもっと将棋を好きになれるかのターニングポイント
手引帖の3巻の学習内容がもっと将棋を好きになれるかのターニングポイント

丸暗記させない

ーはじめての将棋手引帖シリーズは、はじめて将棋に触れる子どもたちでも、無理なく楽しく学ぶことができることをコンセプトにしていますが、3巻の学習内容でも、それは踏襲されていますか。

彰子:もちろん!と即答したいところですが、正直、今回はかなり苦戦しました。理由は先ほど述べたとおり。手引帖シリーズをリリースするときは必ずスタッフや子どもたちにテストを行うのですが、初稿のテストを実施し、フィードバックを受けたところ「分からない」「覚えられない」の嵐でした。

ーどんなところが分からないと言われましたか?

彰子:多かったのは、「複雑な手順が覚えられない」「解説や問題文の想定とは違う手で相手が指してきた時はどう対処すればいいのか」などですね。

ーそれらの課題をどのように克服しましたか

彰子:「複雑な手順を覚えられない」ということについては、できるだけ丸暗記させない工夫をしました。というのも、例えば、囲いの作り方を手順だけで覚えようとすると、▲2六歩△8四歩▲2五歩・・・と符号が並んでしまいます。確かにこれでは、読むのも覚えるのも相当しんどいですよね。そこで手引帖では、手順ではなく、「なぜその手なのか」、指し手1つ1つの狙いと目的について明記しました。そうすることで、正確に手順を覚えていなくても、目的から逆算して手順を導き出すことができます。丸暗記しようと思うと、試験の時みたいにノートに何度も書いたり、単語帳ならぬ手順帳を持ち歩かなきゃいけなくなって、将棋が楽しいというより、大変って感じになってしまいますからね(笑)

複雑な手順を丸暗記するのは大変
複雑な手順を丸暗記するのは大変

実戦を意識した問題

ーでは、後者の課題はどのように対処しましたか?

彰子:その点については、実戦を意識した問題で対応しました。実は今回の3巻から、テキストの制作者として元奨励会三段の荒木くんが仲間に加わりました。奨励会とは、プロ棋士の養成機関みたいなところで、荒木くんは私以上に厳しい環境の中でたくさんの実戦を経験してきたため、問題作成における彼のアドバイスはとても参考になりました。ちなみに、今回の学習のカテゴリーに組み込んだ「理想的な駒組み」というのも彼のアイディアです。

実戦を意識した問題作成
実戦を意識した問題作成

一人ではないテキスト作り

ーそうだったんですね。それでは荒木さん、今回はじめて手引帖の制作に関わってみてどうでしたか?

荒木:私自身、幼い頃からずっと将棋を指してきたわけですが、テキストを作成するというのは初めての体験でした。そこで私が強く感じたのは、将棋は一人で指すけれど、将棋のテキストは一人で作るものではないということです。実は、今回私がテキスト作成時にすごく不安に思ったのが、私自身と、実際に手引帖を使うであろう子どもたちとの感覚のズレです。例えば、テストの時にも指摘されたのですが、私が一般的な日常用語と思っていたことが、実は将棋用語だったり、ここは当然こうだと考えている意図が全く伝わっていないこともありました。よく考えると、私と彰子さん、どっぷり将棋の世界に身を置いていた者どうしの間でも、ちょっとした解釈の違いがあります。なので、テストユーザーさんたちとの間にこうした感覚のズレが生じるのは当然なんです。もしここで「こんな将棋用語知ってて当たり前」「この解説の意図が分からないならどうしようもない」とすると、初心者でも無理なく楽しく学べるというコンセプトから外れ、テキストは完全に一人よがりになってしまいます。

彰子:私は荒木くんという仲間が加わってくれたことで、この一人よがりな部分が解消できたと思っています。私の場合、伝えたいことが多すぎて、しかもそれら全部を盛り込み、結果上手くまとまらず何が言いたいのか分からないことが多いのですが、今回相談相手ができ、冷静な意見をもらえた事で伝えたいことに優先順位をつけることができました。

荒木:周りのスタッフのサポートもとても助かりました。というのも、彰子さんの拠点が東京にあるため、いつでも面と向かって話ができるわけではありません。先に述べたズレを調整する上でも、テキストやそのフィードバックを快く引き受けてくれる人がいるのは、とても心強かったです。私や彰子さんは手引帖シリーズの将棋の部分を担当していますが、手引帖の完成にはたくさんの人が関わっています。

たくさんの人が携わった「はじめての将棋手引帖3巻」作成
たくさんの人が携わった「はじめての将棋手引帖3巻」作成

ーそれでテキストは一人で作れるものではないと言っていたのですね。さて、今こうして完成した「はじめての将棋手引帖3巻」が目の前にありますが、どのような気持ちですか?

荒木:私は途中参加ということもあり、今のところ実感があまり湧かないというのが正直な気持ちです。ただ、これから、私が受け持つ『いつつ将棋教室神戸元町校』でこのテキストを使用することになります。テキストを使った子どもたちの反応を見ることは、緊張するようで楽しみでもあります。「すごく分かりやすい」とか「将棋が楽しくなった」という反応が子どもたちから返ってくると「手引帖を作って良かった」と心から実感できると思います。

彰子:私は3巻の構成を組む段階からとても悩んでいたので、こうして完成品ができたこと自体とても感慨深いですよ(笑)。ちなみに、10月に『いつつ将棋教室東京府中校』のオープンを予定しているので、手引帖の3巻を実際に解く子どもたちの反応を府中で見ることができることを楽しみにしています。ただ、手引帖は、初心者の子どもたちが無理なく楽しく将棋を学べることを想定したものです。藤井四段(当時)の大活躍にわく昨今、将棋雇用室に通うどもたちが増えたとはいえ、その一方で「将棋教室に通いたいけど近所にない」という声をよく聞くのも事実です。昨今では、対面での将棋ではなく、アプリなどで将棋を楽しむ子どもたちがたくさんいます。将棋手引帖はそうした、まわりに将棋を教える人がいない環境の中でも、子どもたちが無理なく楽しく将棋を上達させる上で役立つ1冊になればいいなぁと思います。

現在いつつの将棋教室では手引帖を使ったレッスンをしています
現在いつつ将棋教室では手引帖を使ったレッスンをしています

※この記事はいつつだよりvol.3に掲載している記事と同じものです。

今回ご紹介した「はじめての将棋手引帖3巻」はいつつのオンラインショップ「神戸の将棋屋さんいつつ」で販売しています。

この記事の執筆者金本 奈絵

株式会社いつつ広報宣伝部所属。住宅系専門紙の編集記者を経て現在に至る。

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