将棋を学ぶ 2026年8月26日
将棋ルールの統一
「先生! 相手が二歩を打っちゃいました。」
教室ではよくある光景です。
将棋には禁じ手があり、それを指してしまうと反則負けになってしまいます。中でも「二歩(にふ)」は、最もよく見られる反則のひとつです。
例えば、
- 「金底の歩」を打ってしっかり守ったつもりが、すでに上の同じ筋に歩があった。
- 「垂れ歩」でと金を作ろうと歩を打ったら、下に歩があって二歩だった。
このように、うっかり二歩を指してしまうことがあります。そのため、二歩を打ってしまった子は、とても残念そうな表情を浮かべます。
教室では練習将棋のため、お互いが納得すれば、二歩を戻してやり直すこともありますが、大会では即負けになります。
ではその「二歩」などの将棋の禁じ手はいったい誰がいつどのような理由で決めたのでしょうか?
目次
ゲーム性を考慮して追加されたルール
まずは将棋のルールを整理してみましょう。
将棋のルールには、駒の動きや配置に直接関係し理論的に理解しやすいものと、ゲーム性を考慮して追加されたものがあります。
駒の動きや配置に直接関係するルール
- その駒の動きと違うマスに動かしてしまった (例:銀を真下に動かしてしまった)
- 成れないところで成ってしまった (例:四段目に移動した時に成ってしまった)
- 駒を飛び越えてしまった
- 王手に気付かず、王手を放置して他の手を指してしまった
- 行き所のない駒を作らない
(一段目に歩・香・桂を打ったり、そこへ動かしてはいけない。桂馬は二段目も含む)
しかし、将棋には「このようにしたら面白いのでは?」という考えのもと追加されたルールもあります。
ゲーム性を考慮して追加されたルール
- 二歩(同じ筋に歩を二枚打つ)
- 打ち歩詰(最後に歩を打って詰ませてはいけない)
上記のルールは、なくても一応ゲームとしては成り立ちます。
このように、将棋の禁じ手には、駒の動きや配置に直接関係し理論的に理解しやすいものと、ゲーム性を考慮して追加されたものがあることがわかります。
江戸時代初期、大橋宗古が将棋の4つのルールを定めた
将棋は平安時代から指され、大将棋(駒130枚)や小将棋(駒36枚)など、さまざまな種類が存在していました。
当時の将棋は、盤の大きさを変えたり、駒の数を増やしたり減らしたりと、さまざまな試行錯誤が重ねられました。そしてその過程で現在の将棋の基本ルールである取った駒を再利用するルールも生まれたのです。
現在の将棋(駒40枚)は、遅くとも室町時代には完成し、江戸時代初期には広く普及しており、この頃に駒の動きも統一されました。
では、二歩や打ち歩詰の禁じ手は、いつ、どのように決まったのでしょうか?
江戸時代初期、二世名人・大橋宗古(おおはし そうこ)は、将棋の4つのルールを定め、1636年に江戸幕府へ届け出ます。
宗古が定めた4つのルール
- 二歩の禁止
- 打ち歩詰の禁止
- 行き所のない指し手の禁止
- 千日手の禁止
宗古は、1634年に初代名人・大橋宗桂(おおはし そうけい)から名人位を受け継ぎました。そして、家元制度を守るためには、ルールの統一が必要だと考えたのです。
例えば、江戸では「打ち歩詰」が禁止されているのに、大坂では許されているとしたら、対局の際にトラブルが生じてしまいます。
そこで宗古は、全国統一のルールを設けることで、
- 名人の将棋を敬う文化が生まれる
- 家元制度の維持につながる
- 定跡や手筋が進歩し、ゲームとしての将棋も発展する
と考えたのでしょう。
二歩の禁止
もし二歩が許されていたら、将棋はどのような展開になるのでしょうか?
実際に私も「二歩OK」のルールで将棋を指してみました。
二歩のルールが体に染みついているため、最初はすごく違和感がありましたが、2〜3局指してみると、さまざまな発見がありました。
図1:突き捨ての歩が不要になる

通常なら、歩を突き捨ててから打つ必要がある局面でも、そのまま相手の陣地に歩を打つことが可能になります。
図2:金底の歩がどんどん打てる

守りの要として金の下に歩を打つ「金底の歩」があります。しかし、すでに上に歩があると打つことができません。ところが、二歩OKなら気にせず打てるため、守備がより強固になります。そうなると、攻めるのが一層難しくなってしまいますね・・・。
図3:金がいなくても鉄壁の守りに

驚いたことに、金がいなくても歩を縦に並べることで非常に硬い壁を作ることができました。
これは、玉の守りが非常に堅いですね。
実際に対局してみた感想として、「二歩の禁止」というルールがなくても勝負自体は成り立ち、決着もつきます。しかし、歩の威力が想像以上に強くなりすぎると感じました。
攻めを考えると二歩を気にせず敵陣にすぐに垂れ歩を打てるので、「と金」が作りやすいです。
守りを考えると、歩を縦に並べることで守りの壁を作ることができます。
その結果、とにかく持ち駒に歩が欲しくなる展開が増えました(笑)。
初心者は持ち駒を増やしがちで、王を捕まえることよりも、歩や他の駒を取ることに意識が向きがちです。
そのため、指導者としては「持ち駒は貯めるのではなく、積極的に活用しましょう」と伝えています。
しかし、歩の威力が強すぎると、持ち駒の歩をどんどん貯める方が有利になりやすく、結果的に歩の取り合いが重要な要素になりそうな予感がありました。
歩は小さな動きだからこそ、「合わせの歩」や「叩きの歩」といった手筋が生まれます。これは、歩を相手に渡しても他の駒に比べてリスクが少ないために可能となるものです。しかし、もし歩の力が強くなれば、簡単に渡すわけにはいかなくなりそうですね。
このように考えると、「二歩の禁止」というルールは、歩の威力を適度に抑え、歩を使った多彩な手筋やテクニックを生み出すために設けられた、非常に優れたルールだと改めて感じました。
打ち歩詰の禁止
「打ち歩詰禁止」の理由は明確には分かっていませんが、将棋史の専門家や、私の師匠である堀口先生(堀口弘治八段)の講義によると、詰将棋の影響が大きかったと考えられています。
詰将棋では、打ち歩詰が許されると簡単に詰む局面が増えるため、これを禁止することでより複雑な詰み手順が生まれます。
現代では「詰将棋=棋力アップのトレーニング」と考えられがちですが、江戸時代において詰将棋は、名人が将軍に献上する大切な作品という側面がありました。そのため、詰将棋の世界は非常に発展していったのです。
初代名人・大橋宗桂も多くの詰将棋を作っています。たとえば、次のような局面を考えてみましょう。

1手目☗3二飛成とすると、☖3三銀と角を取られてしまい、☗1二歩と打つことが打ち歩詰の反則となるため、詰みません。
しかし、1手目☗3二飛不成とすることで、☖3三銀の応手に対して☗1二歩と打つことができるようになり、以下
☖2一玉
☗3一と (詰み上がり図)
これで詰みます。

この例は、「打ち歩詰禁止」のルールがあったからこそ生まれた、大駒の不成という珍しい妙手の好例です。
また、この「打ち歩詰禁止」のルールは、プロの実戦でも巧みに活用されています。
自玉が打ち歩詰になる形に持ち込み、ぎりぎりの勝負で勝つということも公式戦で見られます。
こうして考えると、「打ち歩詰禁止」というルールも、江戸時代から現代に至るまで、将棋をより奥深く、興味深いものにしてくれているのですね。
行き所のない指し手の禁止
また、宗古は「行き所のない指し手」の禁止も定めました。一段目に歩・香・桂を打ったり、そこへ動かしてはいけない。桂馬は二段目も含む、というルールですね。
たとえば、敵陣の1段目に歩を打っても動けないので、これは当然のルールともいえます。もしかすると、「2二に桂馬を打つと、次に1一または3一に動ける」という特殊なローカルルールが当時あったため、あえて反則手と定めたのかもしれません。
「回り将棋」などにもローカルルールがありますよね。「おんぶ」というルールがあり、他の駒の上に乗って動くというものを初めて知った時は驚きました。自分が遊んでいたルールが正しいと思い込んでいたところに、他の地域の人と遊ぶと、「え?そんなルールがあるの!?」「面白いルールだね」と驚いて盛り上がることもあります。
ただ、全国でルールが異なると、プロの世界にまで発展するのは難しそうですね。
電話やネットもない時代に、江戸で決めたルールがどうやって全国に広まったのか。それは以前に
に書いていますので、ぜひそちらをご覧ください!!
千日手
宗古が決めた最後の規則が千日手の禁止です。将棋は、お互いが不利にならないよう両者ともに同じ手順を繰り返さざるを得ない局面がまれにあります。現在は同じ局面が4回現れると引き分けとなりますが、江戸時代は攻めている側が打開しないといけないと決めました。これは何度かルール変更があり、昭和の時代になって引き分け、先後を入れ替えて指し直しとなったようです。
まとめ
- 400年前、大橋宗古が禁じ手を定めたことで、現在の将棋の形ができた。
- ルールの統一によって、将棋の発展やプロ棋士の活躍につながった。
- 二歩や打ち歩詰の禁止は、将棋の面白さを引き出す大切なルールである。
400年近く前にルールの統一を決めた大橋宗古はちょっと地味な名人と言われているそうですが、こうした「縁の下の力持ち」のような名人が今の将棋を支えていることが分かりますね。
二歩を打ってしまうと残念な気持ちになりますが、失敗を重ねながら覚えていくものです。初めのうちは禁じ手をしてしまうのも仕方ありません。
しかし、この禁じ手のルールは、将棋を奥深いものにしている400年前に制定された大切な決まりなのだと子どもたちに伝えれば、少しは悔しい気持ちも和らいでくれるかもしれませんね。
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