株式会社いつつ

将棋を教える 2016年11月5日

将棋指導者お悩みQ&A〜子どもどうしの感想戦〜

中倉 彰子

「将棋初心者の子どもたちの棋力をどう上げていくのか」という問いに対する答えとして、「戦法を覚えましょう」や「棋譜並べをしましょう」など、方法論のようなものは既にある程度確立されていると思います。しかし、子どもたちがどの順番でそれらをこなしていくのかや、子どもたちにどのタイミングでそれらを教えればいいのか、そしてどう教えると初心者にも分かりやすく伝わるのかといった子どもに対する細かい部分での配慮が、指導する側にとって悩ましいポイントだと思います。

特に、教える側がある程度将棋に精通していると、自分ではよく分かっているだけに、初心者の子どもたちがどの部分でつまずくのか、またつまずく場所の何がわからないのかがよく理解できずに歯がゆい思いをすることも少なくないと思います。

そこでいつつブログを通じて、将棋の強いお父さんお母さんや将棋の指導者の方が抱える、初心者の子どもたちに将棋を教える際のお悩みについて、女流棋士の中倉彰子が子ども将棋教室などで実践していることをもとにお答えしたいと思います。

中倉彰子が初心者の子どもたちに将棋を教えるときのお悩みにお答えします。
中倉彰子が初心者の子どもたちに将棋を教えるときのお悩みにお答えします。

さて今回いただいたお悩みは、子どもたちの感想戦についてです。

子どもどうしの対局の後、感想戦に指導者がどこまで踏み込むべきでしょうか?

子どもたちの棋力によると思います。

具体的には、子どもたちの棋力は大きく「初手から振り返られる」「初手から振り返られない」の2つに分けられるのですが、有段者くらいの「初手から振り返られる子ども」は自分で指した手をだいたい覚えているので、終わった後に最初の形に戻し、初手から振り返ってもらってもいます。この場合、私は子どもどうしの感想戦には極力口を挟まず見守る程度にしています(^ ^)

そして、「初手から振り返られない子ども」に対しては終局の局面から振り返るようにしています。

その場で終わったばかりのその局面を子どもたちと一緒に確認し、きっちり詰まれていたらその手順を見せてもらい、「よく詰ませたね。」と勝った子に声をかけ、負けてしまった子がもし間違って逃げていたら「こうやって逃げていたら良かったね。」と声をかけるようにしています。「初手から振り返られない子ども」でも数手くらい前なら振り返ることができるからです(^ ^)

また、これくらいの棋力の子どもたちに多いのは、うっかり玉を取られてしまったという局面です。特に角の利き、飛車の利きはうっかりしやすいものですので、「こんなに遠くから狙っていたんだね。」などと声をかけます。王手の見逃しは、将棋を覚えたばかりの初心者の子どもたちにはとても多いからです。

どのように負けたのか、どのように受けていたのか、もし王手のかかった手順に気づいていたらどうやって対処していたのかを子どもたちに確認し、こうしたことを何度も繰り返すうちに子どもたち自身が次から気を付けるようになります。

また、こうした終局の局面での感想戦に子どもたちが慣れてくると、今度は序盤からの感想戦に挑戦してもらいます。もちろん、きっちり全ての手順を覚えているかということではなく、時には混沌とした盤面になっちゃうこともあるのですが、私は序盤の10手が並べばそれでよしだと思っています(^ ^)

角道をちゃんと突くことができたか、飛車先の歩がついてあるか、玉の囲いができたかなどを子どもたちに確認します。中には囲いができるのにしない子には「なんで美濃囲いしなかったの?」と声をかけます。囲いなどは、実戦で何度も繰り返しなが手順を覚えていくので、囲いを知っている子どもたちにはなるべく実戦でも囲いをするように促しています。

子どもたちの感想戦は、正確に振り返ることよりも、子どもたちが二人でできるように促すように意識しています。はじめて対局した二人でも、間に私が入って二人の会話が始まれば、よく分からないなりに勝った側のお子さんが「こうだと思う」という感じで負けた側のお子さんがどうするべきだったかを教えてくれることが良くあります。このように誰かに教えてあげるという体験からも子どもたちが学ぶことがあるんじゃないかなぁと思っています。

もしかしたら、「こんなの感想戦の真似事だよ」とおっしゃる方もいるかもしれません。しかし、たとえ棋力が追いつかなくても、時間がどんなに短くても子どもたちどうしの対局の後には必ず感想戦をすることで着実に棋力が上がっていくと思うので、二人で感想戦ができるようにフォローをしています。

また、どこまで踏み込むかということですが、子どもたち二人がそれぞれ話し始めたらなるべく見守りはするのですが、負けた側のお子さんが「今度はここを気をつければいいんだ。」という気づきがあるようにしたいと心がけています。子どもたちどうしでそれが見つかりそうなら見守るだけですが、子ども二人だけではちょっと無理そうかなという時は、私が入って「ここはこうすれば良いかもしれないね。」と踏み込みます。

ただあくまで提案のような口調です。「こうするべき!」「なんでこーやらなかったの!」という断定的な言い方はしないようにしています。

なぜなら、子どもたちなりにそう指した理由があることもあるからです。「この駒で取られるかと思ったから。」という時に(あーそうかこの手が見えにくいんだなー。)と私も気が付かされます。できれば子どもたちが「あ、そうか。」という納得が行くように提案してあげたいですね。また断定しない他の理由としては、私レベルでは見えないような手を、もしかしたら子どもたちが見えている可能性があるかもしれませんからね(^ ^)。

子どもたちの棋力が追いつかなくても、対局の後は必ず感想戦をするようにしましょう。
子どもたちの棋力が追いつかなくても、対局の後は必ず感想戦をするようにしましょう。

さて、今回は将棋初心者の子どもどうしの感想戦への関与の仕方についてお答えしたのですが、いかがでしたでしょうか?

きっと将棋を教える上でのお悩みはもっと色々あることかと思います。どこまでお役に立てるか分かりませんが、私も子どもたちに将棋を教える指導者の一人として、皆さんと悩みを共有し、「これいいな」「良かったな」ということはどんどん発信していきたいと思っています(^ ^)

いつつの将棋教室では、初めて将棋に触れるという初心者の子どもたちでも、無理なく楽しく将棋を身に付けられることを目指したオリジナルテキスト「はじめての将棋手引帖」を使用しています。

この記事の執筆者中倉 彰子

中倉彰子 女流棋士。 6歳の頃に父に将棋を教わり始める。女流アマ名人戦連覇後、堀口弘治七段門下へ入門。高校3年生で女流棋士としてプロデビュー。2年後妹の中倉宏美も女流棋士になり初の姉妹女流棋士となる。NHK杯将棋トーナメントなど、テレビ番組の司会や聞き手、イベントなどでも活躍。私生活では3児の母親でもあり、東京新聞中日新聞にて「子育て日記」リレーエッセイを2018年まで執筆。2015年10月株式会社いつつを設立。子ども将棋教室のプロデュース・親子向け将棋イベントの開催、各地で講演活動など幅広く活動する。将棋入門ドリル「はじめての将棋手引帖5巻シリーズ」を制作。将棋の絵本「しょうぎのくにのだいぼうけん(講談社)」や「脳がぐんぐん成長する将棋パズル(総合法令出版)」「はじめての将棋ナビ(講談社)」(2019年5月発売予定)を出版。

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