株式会社いつつ

連載:全国将棋道場巡り 2018年12月20日

将棋に魅了され未経験から将棋教室の席主へ〜大逆転将棋倶楽部〜

金本 奈絵

女流棋士中倉彰子が津々浦々、全国の将棋教室・将棋道場を巡る「全国将棋道場巡り」、今回はいつつのスタッフが兵庫県姫路市にある大逆転将棋倶楽部を訪れました。お話をうかがったのは席主を務める冲中尚平さん(以下冲中さん)。将棋教室を開校するまで、ほとんど将棋とは縁の無い生活を送っていたという冲中さんに、何が転機となったのか、これまで将棋とは違う世界に身を置いてきたからこその教室運営の視点などについて詳しく聞いて来ました。

大逆転将棋倶楽部席主冲中尚平さん
大逆転将棋倶楽部席主冲中尚平さん

将棋ほぼ未経験から将棋教室席主へ

HPを拝見していてとても驚いたのですが、冲中さんはもともと将棋をしていたわけじゃないんですよね。

冲中さん:はい。駒の動かし方を知っているくらいで、ほぼ未経験と言っても過言ではありませんでした。

それがどういった経緯で将棋教室を開校することになったのでしょうか?

冲中さん:実は私はもともと飲食店の店主をしておりまして、そこの常連さんにプロ棋士の神吉宏充七段がいました。ある日神吉七段に「将棋のイベントに来ないか」と誘われて、今も大逆転将棋倶楽部で毎日開催している大盤トークショーの前身となるイベントに参加しました。正直なところあまり乗り気ではなかったのですが、いざイベントに参加してみると、気づけば私の心はすっかり将棋に魅了されていました。

具体的には、将棋の何が冲中さんをそこまで惹きつけたのでしょうか?

冲中さん:時事ネタを交えた神吉七段の軽快なトークもそうなのですが、「将棋と飲食店の運営が似ている」と直感しました。例えば、飲食店でお客さまの気持ちを考えなくてはいけないように、将棋でも対局相手について、これでもかというくらい考え抜かないといけません。これまで、将棋と飲食店はまったく別の世界のものだと考えていたのですが、このイベントをきっかけにこの2つが結びついたことにとても感動しました。

なるほど。将棋は敷居の高いイメージが根強く、将棋を指さない人にとってはとっつきにくい部分がありますが、冲中さんのように、身近なものに将棋を当てはめることで、将棋との距離がぐんと近づきますよね。

冲中さん:そうですね。実は大逆転将棋倶楽部では、既に将棋を好きな人に将棋を楽しんでもらうということもそうなのですが、かつての私自身のように、まだ将棋の魅力を知らない人に将棋の楽しさ・おもしろさを知ってもらうことを大切にしています。そこで、将棋入門者の入り口として先ほどの大盤トークショーをはじめとした様々なイベントを開催しているのですが、そこでは、将棋×将棋以外の何かというテーマを意識するようにしています。先日は、私が飲食店の店主をしていることもあり、婚活イベントを開催したのですが、参加者の方2名が、後日、イベントで使用していた簡易版の将棋グッズを買いに来てくれました。また、現在も女性向きの講座を企画しているところですが、女性が将棋に興味を持ってくれるきっかけになるような切り口を模索しているところです。

かつての自分と同じような将棋初心者の方も大歓迎と話す冲中さん
かつての自分と同じような将棋初心者の方も大歓迎と話す冲中さん

将棋の世界にいなかったからできること

いつつでも親子向けの将棋イベントを開催しているのですが、イベントは、入門者に対する普及という観点ではとても効果的ですよね。それにしても、将棋×将棋以外の何かというのは、ずっと将棋の世界にいなかった冲中さんならではの視点だと思います。他にも将棋教室を運営する上で、冲中さんがこだわっていることはありますか?

冲中さん:気楽に将棋を楽しめる環境というのを大切にしたいと考えています。例えば、小綺麗でリラックスできる空間でBGMとして有線を流してみたり「ちょっとコーヒー飲みにいってくる」という感覚でちょっと将棋を指しに来れるような場所づくりをしています。

気軽に将棋が指せる場所を目指して作られた空間
気軽に将棋が指せる場所を目指して作られた空間

将棋について右も左も分からない中で将棋教室の準備をするというのは大変だったと思います。

冲中さん:将棋教室の空間の作りに関しては私の方でこだわりを持ってやらしていただきましたが、将棋道具については神吉七段からどのようなものがいいのかなどアドバイスしていただきました。

-今拝見する限り、将棋盤も将棋駒も木製の良いものを使用されていますよね。

冲中さん:安いものでもありませんし、最初はここまでのものを用意する必要があるのかなぁと思ったのですが、実際にこれらの道具を使ってみると、駒を指す音、駒を持った感触、ずっと将棋を指してきたわけではない私でもプラスチック製のものとは差が歴然でした。先ほど、大逆転将棋倶楽部は気軽に将棋を指すところだと申し上げましたが、その一方でプロ棋士である神吉七段が直接将棋の指導を行う場所でもあります。プロ棋士による指導にはプロ棋士の指導にふさわしい道具を使うべきだと今なら心からそう思います。

プロ棋士による指導にはそれにふさわしい将棋道具が必要
プロ棋士による指導にはそれにふさわしい将棋道具が必要

-やはり、プロ棋士による指導は違うものですか?

冲中さん:私がいつも神吉七段の指導を側で見ていてすごいと感じるのは、同じ局面でも相手によって指し手を変えるというところです。プロ棋士なので、当然最善手が見えているわけですが、相手の棋力やモチベーションを見計らって、将棋的な最善手ではなく、その人の指導のための最善手を選らんいるところです。これは、私にはできない指導だなと思います。

-プロ棋士にしかできない指導がある一方で、冲中さんにしかできない指導もあると思います。

冲中さん:指導というか、私が将棋教室の席主として心掛けているのは、大逆転将棋倶楽部に通ってくれる利用者様の将棋以外の部分をしっかり見るということです。例えば、将棋をずっとやってきた人だとどうしても棋風など将棋を通じて相手を認識することが多いのですが、私の場合は、はじめて来られた方でも、その人の顔と名前を一致させるようにして、例えば何に興味があってどんなクラブ活動をしているのかなど、その人に関する色んな周辺情報を集めます。これらの情報を元に、将棋教室に来られたときのあいさつのときや対局と対局の間に会話をしてコミュニケーションをとるようにしています。

成長を成果という形で残すすことでモチベーションを維持

長時間将棋と向き合っていると煮詰まる瞬間ってありますよね。そんな時に、他愛のない会話をすることでいい息抜きになると思います。そういえば、大逆転将棋倶楽部は子ども将棋教室もされているんですよね。今どれくらいのお子さんがいらっしゃるんでしょうか?

冲中さん:約30人くらいです。親子で指しに来る子もいますよ。今は土・日に開催しているのですが、最初に詰将棋の宿題の答え合わせ、その後大盤解説をしてから、神吉七段の指導対局とリーグ戦を行います。リーグ戦には私も参加しますよ。

盛り沢山な感じですね。リーグ戦はいつつでも今取り入れたいと検討しているところなのですが、子どもたちに棋力差があるので少し悩んでいるところです。

冲中さん:確かに、子どもたちの間に棋力差があると子どもたちのモチベーションが心配になりますよね。特にリーグ戦だと負け続けることもあるわけですし。なので、そのために私がリーグ戦に参加しているというのもあります。私だったら子どもたちに負けてあげることもできますので。それに、うちのリーグ戦では勝ち負けで白黒はっきりつけるのではなく、ポイント制を導入し、勝っても負けてもポイントがもらえるようにしています。そうすることで0ポイントということは絶対ないですし。

将棋は成果を実感しにくい競技なので、子どもたちのモチベーション維持のために様々な工夫が必要ですよね。いつつでも子ども将棋大会に参加してもらうなどしています。

冲中さん:私の場合は、主に小学校が主催する小規模な大会を案内するようにしています。というのも、大逆転将棋倶楽部は今年オープンしたばかり。奨励会を目指すようなお子さんは今のところいません。ですので、大きな大会だと全部負けてしまうかもしれませんが、それとは逆に小さな大会であれば、他の参加者より実戦をこなしている分善戦できる可能性は十分にあります。将棋の成長というのは実感しにくいものですが、やってきたことをちゃんと「勝つ」という成果として残してあげるのは大切なことだと思います。先日も、小学校の将棋大会でうちの生徒が優勝して、お子さんはもちろんですが親御さんもとても喜んでおられました。

子どもたち自身もそうですが、子どもの成長を体感できないというのは親御さんにとっても歯がゆいことだと思います。

冲中さん:とはいえ、将棋教室として、子どもたちに大きな大会に参加してもらうといことも検討したいと考えています。実は3ヶ月前に入会した5歳のお子さんがいるのですが、あれよあれよと言う間に棋力を伸ばし、たった3ヶ月で3級にまでなりました。もともと、お父さんが子どもと一緒に将棋を指したいと連れてきてくれたのですが、今ではお父さんよりず強くなってしまいました。これから先、彼のようなお子さんが入会した時にプロ棋士を目指すという選択肢も取れるように、その土壌をしっかり整えてあげたいと考えています。大会のこともそうですが、今は一括りにしている子ども将棋教室を子どもたちの目的に合わせてクラスを分けるなど充実したものにしていければと考えています。

編集後記

JR姫路駅からほど近く、商店街のビルの2階にある大逆転将棋倶楽部の窓には神吉七段のキャラクターが描かれていました。冲中さんに「とても目を引く看板ですね」と話したところ、「路面店ではないので」となんとも飲食店の経営者らしい答えが返ってきました。現在、昼は将棋教室の席主、夜は飲食店の店主として活動している冲中さんですが、「大変じゃないですか?」との質問に「全然そんなことはないですよ。ようやく今の生活サイクルにも馴染んできましたし、もっとがんばりたいです」ととてもパワフルな回答をいただきました。

2階でもどこに将棋教室があるのか一目瞭然
2階でもどこに将棋教室があるのか一目瞭然
子どもに大人気というドリンクバー。現役の飲食店店主らしい発想。
子どもに大人気というドリンクバー。現役の飲食店店主らしい発想。

今回取材した中でとても印象的だったのは、「ちなみに冲中さんの棋力はどれくらいでしょうか?」という私の質問対して「3級くらいじゃない」と、なぜかその場にいた高校生くらいの男の子が答えてくれた場面です。そこには、講師と生徒というよりももっと距離の近いどこか友人どうしの関係性のようなものが感じられました。

また、冲中さんと共に将棋教室の指導を行う神吉七段も冲中さん同様とてもパワフルな方らしく、毎日将棋教室に顔を出しているそうです。「昼から東京でテレビ番組の撮影があるにもかかわらず、朝将棋教室に来て子ども達の指導をしてから撮影現場に向かった」というエピソードからも、神吉七段の将棋にかける並々ならぬ情熱がうかがえます。

つい最近まで、将棋ほぼ未経験者だったという冲中さんと、ずっとプロ棋士として活躍してこられた神吉七段。今年3月にオープンしたばかりの大逆転将棋倶楽部からは、そんな全く異なる人生を歩んできた二人の、「将棋が楽しい」「他の人にも将棋を楽しんでもらいたい」という共通の思いがひしひしと伝わってくるようでした。

大逆転将棋倶楽部は冲中さんと神吉七段の「将棋は楽しい」という共通の思いが詰まった場所
大逆転将棋倶楽部は冲中さんと神吉七段の「将棋は楽しい」という共通の思いが詰まった場所

道場データ

道場名称 大逆転将棋倶楽部
場所 兵庫県姫路市駅前町346 UBE2階
営業時間 平日 13:00~21:00
土日祝 10:00~21:00
(子供教室)毎週土•日13:00~15:00

いつつHPに内にある将棋教室・道場検索では全国の将棋教室・道場を紹介しています。 大逆転将棋倶楽部もご登録いただいています(^ ^)

この記事の執筆者金本 奈絵

株式会社いつつ広報宣伝部所属。住宅系専門紙の編集記者を経て現在に至る。

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