株式会社いつつ

連載:全国将棋道場巡り 2018年6月13日

棋士まち加古川の将棋拠点〜かこがわ将棋プラザ〜

中倉 彰子

女流棋士中倉彰子(以下彰子)が、日本津々浦々、全国の将棋教室・将棋道場を訪れる「全国将棋道場巡り」。今回は稲葉陽八段や船江恒平六段など多くのプロ棋士を輩出した棋士のまち兵庫県加古川市にやって来ました。お話をうかがったのは、かこがわ将棋プラザの中にある「加古川将棋倶楽部」の師範であり、現在、現役のプロ棋士としてもご活躍されている井上慶太九段(以下井上九段)です。

かこがわ将棋プラザ席主井上慶太九段
かこがわ将棋プラザ席主井上慶太九段

棋士のまち、兵庫県加古川市

将棋普及の観点から改装されたという加古川将棋プラザには、遠方から通いに来る人もいるという
将棋普及の観点から改装されたという加古川将棋プラザには、遠方から通いに来る人もいるという

彰子:「井上先生をはじめプロ棋士の指導を受けることができるなんて子どもたちはとても幸せだと思うのですが、現在こちらにはどれくらいお子さんがいらっしゃいますか」

井上九段:「70名程在籍しています 」

彰子:「さすが棋士のまち加古川。将棋が盛んなんですね」

井上九段:「確かに元々将棋が盛んなまちではありますが、子どもたちの中には加古川市以外の遠方からこられる方もいらっしゃいます。岡山や四国、中には月に1回お父さんと一緒に大分県から参加してくださる方もいます。とてもありがたいことですね」

彰子:「大分県!?すごいですね」

井上九段:「子どもの人数は増えましたね。市が応援してくれていることもありますし、昨年の5月にこちらへ移転したことも関係あるように思います」

彰子:「駅近でとても便利な場所ですね。デパートの中なのでお母さんもお子さんが将棋を指している間ショッピングできるのもいいですね!」

井上九段:「場所も便利ですし、将棋に関する展示スペースがあったり、自由に将棋が指せるオープンスペースがあったりと、加古川市が将棋普及という観点から改装をしてくれました」

彰子:「将棋に対してとても理解のあるまちなんですね。なぜ加古川市ではこんなにも将棋が盛んなのでしょうか」

井上九段:「私も詳しくは分からないのですが、今から25年前に、かこがわ将棋プラザの前身である加古川将棋センターがまちに出来てそこがとても繁盛していました。私も、その頃に加古川市に越してきて、今から11年前に当時アマチュアだった席主の方から加古川将棋センターを引き受けました。現在、プロ棋士として活躍している稲葉陽八段や船江恒平六段も元々は加古川将棋センターで毎日のように将棋を指していたんですよ」

棋力を正確に測る難しさ

子どもたちの棋力測定は指導者の悩みどころ
子どもたちの棋力測定は指導者の悩みどころ

彰子:「そうなんですね。加古川将棋プラザには、奨励会員になる子もいると聞いているのですが、みんなすごく将棋が強いんじゃないですか?」

井上九段:「棋力としてはこども将棋教室の方は上は二段から下は20級まであります。二段より強くなれば、こども教室の方を卒業し、大人もいる一般クラスに移るのですが、奨励会を目指すのは、そこで三段、四段、五段とさらに棋力を伸ばしていくことができる子たちです。子ども教室の方は棋力により3つのクラスに分け、大盤解説による講義をしたり、リーグを作って対戦したりしています。ただ、うちの教室の場合、1番下の20級といえどもみんな3手詰はできるレベル、確かに初心者としては少しレベルが高いのかもしれません。もし体験会などで、はじめて将棋に触れるといった本当の初心者の方が来られたときは、入門者のための将棋教室などを案内するようにしています」

彰子:「強い子や入門者など、子どもたちの棋力に応じて色んな受け皿があるというのはすごくいいですね。また、20級から二段というとかなり細かく級の設定がされていますね。昇級の仕組みはどのようになっていますか?」

井上九段:「うちは昇級のタイミングは原則月1回にしているのですが、子どもの場合、急に強くなるということもよくあるので、例えば勝率が6割を超えていれば、イレギュラーで昇級させることもあります。ただ、昇級させるさせないが難しい判断ですよね。たまたま調子がよくてたくさん勝っていたので昇級させてしまって、その後ずっと負けが続いてしまうということはよくありますよね。それで何が困るのかというと、一度昇級させてしまうと降級はできないということですね。将棋での勝った・負けたは子どもたちのモチベーションを大きく左右するので、できる限り正確に棋力を見極めてあげたいと思っています」

まずは将棋で勝つ喜びを

子どもたちにはまず将棋の楽しさを伝えたいと話す井上九段
子どもたちにはまず将棋の楽しさを伝えたいと話す井上九段

彰子:「井上先生が子どもたちを指導するときに何か心がけていることはありますか?」

井上九段:「とにかく最初は将棋の楽しさを知ってもらうことです。なので、最初のうちはあまり厳しくしないですね」

彰子:「なるほど」

井上九段:将棋において、もちろん礼儀作法は大切なことです。ただ、駒をきちんと並べなさい、チェスクロックをバンバン叩かないといったことは、ある程度棋力がついてから子どもたちに伝えるようにしています。もっと強くなりたいと子どもたちが自ら思うようになれば、自分より強い人を目標とし、真似をするようになるので、将棋が強い子の礼儀作法をきちんとしていれば、強くなりたい子たちも、自然に礼儀作法をちゃんとしようと思ってくれます。それに、この段階にくれば私のちゃんとしなさいという小言もわりとすんなり納得してくれますし、笑」

彰子:「なるほど〜。井上先生の考える将棋の楽しさはなんでしょうか?」

井上九段:「大人と違って子どもは無邪気ですから、やっぱり勝つ喜びを知ることが将棋の楽しさにつながるのではないかと考えています。私は子どもの頃いつも父と将棋を指していたのですが、いつも父に勝っていました。当時の父の棋力が道場で初段ぐらいだったので、自分も初段くらいかそれ以上だと思っていたのですが、初めて道場に行ってもらったのがなんと10級。自分でびっくりしたのを鮮明に覚えています、笑 今考えると、父がわざと私に負けてくれていた訳なのですが、当時は父に勝てるということがとても嬉しかったのです。そして自分が奨励会に入り、指導する機会を持つようになってから、あ、あの時父はわざと負けてくれたんだなって気がついたんですよね」

彰子:「とても優しいお父さんですね。子どもにずっと自信をつけさせてあげながら伸ばしていかれたお父様の指導は素晴らしいですね」

強くなる条件

将棋が強くなる子は将棋にかける時間と愛情を惜しまない
将棋が強くなる子は将棋にかける時間と愛情を惜しまない

彰子:「もしかすると、今ここにいる子の中にも将来プロ棋士になる子がいるかもしれませんね。井上先生から見て、この子はプロ棋士になれるという資質のようなものはありますか?」

井上九段:「プロになれるかまでは分からないですが、強くなれるかどうかはわかるような気がします。何事もそうなのかもしれないですが、将棋が強くなる子は、もうずーっと将棋やってますよね、笑。うちから奨励会へ行った子はみんなそうなのですが、少しでも時間があれば詰将棋の問題を解いたり、家でもアプリなどで将棋を指したり、将棋に対して時間も情熱も惜しまない子で、将棋が好きでしょうがないという子ですね」

彰子:「確かにそうですね。ここでは将棋が好きな子がいくらでも将棋ができるようなオープンスペースや書籍、将棋情報などがつまっている、すばらしい環境ですね」

編集後記

前日に加古川市民会館にて、いつつ主催の「親子の将棋の世界をのぞいてみよう」というイベントを開催し、200人くらいの親子にご参加いただき、余韻がまだ冷めやらない翌日にかこがわ将棋プラザに向かいました。 加古川駅をおりると加古川市ゆかりの棋士の写真が入った将棋型の大きなパネルがあり、「さすが棋士のまち!」と感じ、私も女流棋士としてなんだか嬉しく感じました。

駅からバスロータリーを渡るとデパートがあり、その3階に「かこがわ将棋プラザ」があります。会場につくと井上慶太先生が笑顔で出迎えてくれました。本当に笑顔が素敵な先生です! 将棋盤は30面ほど。広くてきれいな会場には、将棋関連の書籍が並ぶ書棚や(「しょうぎのくにのだいぼうけん」もありました!ありがとうございます。)他にも、将棋関連情報を知ることができるコーナーや、駅と同じく井上先生をはじめとした、ゆかりの棋士の先生方が映った写真や色紙や扇子が飾られていました。こんなにもプロ棋士を身近に感じる(しかもたくさんいらっしゃる)ことのできる教室って、なかなか他にはないと思います。

「昨日も稲葉くんが手伝いにきてましたよ」。す、すごい。大分県など遠方からも参加しにくる子がいるのもうなずけますね。

本文にもあるように、本当にはじめて将棋をする子には別途「初心者教室」があるとのこと。そしてある程度させるようになってきたら、 井上先生の今回取材させていただいた「こども教室」。二段くらいになると「こども教室」を卒業し大人と一緒に将棋を指すところ。またもっと強くなれば「井上塾」という流れができており、それぞれのお子さんのレベルにあった教室や学ぶ場が加古川市内に集まり、それぞれで連携が取れているというところに、改めて加古川市は将棋のまちなんだなぁと実感しました。

11年という長い年月、子どもたちの指導をされ、稲葉さん、船江さんなど若手有望な棋士を輩出してきた井上先生の教室。井上先生は笑顔で「けっこうこわいですよ」と仰っていましたが、厳しくも温かい指導で子どもたちは伸びていくのだろうなと思いました。 「先日藤井聡太さんに勝たれたとき、子どもたちの反応はどうでしたか?」とお聞きすると、「こども教室でそのことを報告したら皆拍手で喜んでくれましたよ。ちょっとは見直してくれたかな?」とおっしゃっていましたが、子どもたちはきっと自分のことのように喜んだのではないでしょうか。 いつつ将棋教室でも、プロ棋士をお招きした特別講座を開催していますが、こんなに身近にプロ棋士を感じることができる「棋士のまち加古川」をとても羨ましく思います。。次はどんな「棋士」が誕生するのでしょうか。楽しみですね。

道場データ

道場名称 かこがわ将棋プラザ こども教室
場所 兵庫県加古川市加古川町篠原町 21-8 カピル 21 3階
営業時間 毎週日曜日 10:00〜12:00 5週目は休み

いつつHP内にある将棋教室・道場検索では全国の将棋教室・道場を紹介しています。

この記事の執筆者中倉 彰子

中倉彰子 女流棋士。 6歳の頃に父に将棋を教わり始める。女流アマ名人戦連覇後、堀口弘治七段門下へ入門。高校3年生で女流棋士としてプロデビュー。2年後妹の中倉宏美も女流棋士になり初の姉妹女流棋士となる。NHK杯将棋トーナメントなど、テレビ番組の司会や聞き手、イベントなどでも活躍。私生活では3児の母親でもあり、東京新聞中日新聞にて「子育て日記」リレーエッセイを2018年まで執筆。2015年10月株式会社いつつを設立。子ども将棋教室のプロデュース・親子向け将棋イベントの開催、各地で講演活動など幅広く活動する。将棋入門ドリル「はじめての将棋手引帖5巻シリーズ」を制作。将棋の絵本「しょうぎのくにのだいぼうけん(講談社)」や「脳がぐんぐん成長する将棋パズル(総合法令出版)」「はじめての将棋ナビ(講談社)」(2019年5月発売予定)を出版。

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