株式会社いつつ

連載:全国将棋道場巡り 2018年5月1日

子ども将棋教室 神拓道場  〜子どもたちが安心して通える楽しい将棋教室〜

中倉 彰子

女流棋士中倉彰子(以下彰子)が、全国津々浦々、様々な将棋教室・将棋道場を巡る「全国将棋道場巡り」。今回は、静岡県浜松市にある「子ども将棋教室 神拓道場 」にやってきました。 取材に応じてくれたのは、神拓道場席主の神戸博さん(以下神戸さん)と、主に初心者の指導を受け持つ高橋香代さん(以下高橋さん)です。

子ども将棋教室 神拓道場にやってきました。
子ども将棋教室 神拓道場にやってきました。

教会の中の将棋教室

彰子:将棋教室が教会の中にあるんですね。とても驚きました。西洋が起源の教会と日本の伝統文化である将棋。子どもたちが教会で将棋を指す光景を見ると、なんだか不思議で新鮮な感じがします。

教会の中に将棋教室が
教会の中に将棋教室が

神戸さん:次女の婚姻の関係で、教会の空きスペースを将棋教室の会場として貸してもらっています。また、この部屋だけではなく、将棋教室がある土曜日には、敷地内にある広場や山なんかも子どもたちが使っています。

彰子:屋外で将棋を指すのですか?

神戸さん:いえいえ。子ども教室神拓道場は、毎週土曜日に開催しているのですが、時間が10時〜17時半と長丁場なので、途中で長めの休み時間をとって、子どもたちに外で遊んでもらっています。サッカーをしたり、ウサギの世話をしたりしていますよ。

彰子:ウサギもいるんですね(^ ^)確かに将棋はじっと考え込む場面もたくさんあるから、頭の中が煮詰まってしまったり、長時間集中力を持続するのが難しいですよね。そんな時に、外に出て全く違うことをするというのは子どもたちにとってもいいリフレッシュになりそうです。

神戸さん:全力で駆けまわっているようで、休み時間が終わると元気に戻ってきます。怪我なども心配なので一応、保険料として保護者の方から1000円頂戴しています。

モチベーションを上げる月例大会

彰子:保険料とは、頭だけではなく身体も使う神拓道場ならではのシステムですね、笑

神戸さん:はい、笑

みんなのおやつや大会の景品なども準備しています。

彰子:大会は子どもたちにとっていいモチベーション維持になりますよね。

神戸さん:はい。毎月第1土曜日に月例大会と呼ばれる大会を実施しています。 ちなみに、神拓道場の月例大会は、子どもも上のクラスになると大人もまざって将棋を指します。

彰子:今日は第1土曜日なので大会の日なのですね。これだけ生徒さんがたくさんいらっしゃると大変そうなのですが、どのようなシステムで 運営されてますか?

神戸さん:ちょうど今日が今年度最初の大会なんです。全員で74人が参加してくれていて、うち10人がほぼ将棋初心者ですので、その10人を1つのグループ、残り64人を棋力に応じた16人ずつの4つのグループに分けてトーナメントを行います。また、この普段の教室は、1対局あたり、勝てば3点、負ければ1点のポイント制になっています。もちろん、月毎にもちゃんと優勝者を決めているのですが、年間獲得ポイントの成績上位者にも景品を渡すようにしています。

取材当日は今年度最初の大会。みんな休憩の合間におやつを食べてエネルギーをチャージ
取材当日は今年度最初の大会。みんな休憩の合間におやつを食べてエネルギーをチャージ

彰子:なるほど〜。そうすれば、消化試合はなくいつもどの対局も大切にできますよね。

始まりは6畳の自宅部屋

彰子:それにしても、ここではにぎやかではありますが、きちんと対局のときは子ども真剣に将棋を指していますよね。74人もいて騒がしくならないのがすごいです。

神戸さん:今でこそ、いい環境の中でこうやってたくさんの方にきていただいているのですが、神拓道場の始まりは6畳の自宅部屋です。今から11年前、私はその頃カルチャー教室で講師をしていたのですが、当時、子どもが出入りができない道場も多かったので、子どもたちが通える教室がほしいなと思ったのがきっかけでした。最初は5〜6人の生徒から始めたのですが、そのうち生徒の中から県大会で優勝するような強い子も出るようになり、そこから口コミが広がって今に至ります。

彰子:昨年は奨励会員を二人も輩出したと伺っています。

神戸さん:はい。どちらも幼稚園の頃から教えていたのですが、彼らが小学校5年生になる頃にはもう勝てなくなっていました、笑 今二人は、奨励会の中でたくさんのライバルたちに揉まれていると思うのですが、いつかは神拓道場卒業生の中からプロ棋士を輩出したいというのが私の夢でもあるので、ぜひ頑張ってもらいたいです。

彰子:素敵な夢ですね(^ ^)自分の教室出身の子どもたちの活躍する姿というのはとても嬉しいものだと思います。

神戸さん:はい。ただ、その嬉しさは盤上じゃなくても同じです(^ ^)将棋のプロを目指さなくても立派な社会人になってほしいという願いもあります。神拓道場の卒業生たちがよくお手伝いをしてくれますよ。つい先日も中学入学後にパソコン部に入部したという卒業生がパパッとパソコンで大会のリーグ表を作ってくれたんです。私はこの時すごく頼もしく思いました

彰子:私は東京の府中市でいつつ将棋教室を開校したばかりでまだ卒業生がいないのですが、この先神戸さんのように、卒業生たちといい関係を築いていけるいいですね。

初心者の指導を担うママさん指導員

彰子:神拓道場では、奨励会員や県大会優勝などかなり棋力の高いお子さんがいる一方で、ほとんど初心者というお子さんもいらっしゃるとのことでしたが、周りが強すぎると、初心者のお子さんはなかなか勝てず、苦しい思いをすることも多いのではありませんか?

神戸さん:大会でもそうなのですが、神拓道場では棋力に応じてクラス分けをしています。同じ棋力のものどうしであれば、基本的には一方的な展開になることはなく、勝ったり負けたりを繰り返します。もしグループの中から突出して強い子が出てら1つ上のクラスに上げますし、逆に全く勝てないようだったら、1つクラスを下げるということもあります。それはそれで辛いのかもしれませんが、あくまで将棋は勝負の世界。子どもといえどもその厳しさからは逃れられないと考えています。

彰子:なかなか厳しいですね。でも勝負の厳しさを身をもって体験できるというのも将棋のいいところだと思います。

神戸さん: はい。とはいえ、子どもたちが本当に将棋を嫌いになってしまっては困るので、4つほめて1つしかるという感じで指導するよう心がけています。

彰子:子どもたちは褒められるのが大好きですかね(^ ^)それにしても4つは褒めすぎじゃないですか、笑

神戸さん:私が将棋を始めたのは5歳の頃。兄から歩三兵の駒落ちを教えられたことがきっかけだったのですが、兄の指導の厳しかったこと、褒められたことなんて1度もなかったんです。私自身の苦い思い出もあったので子どもたちにはたくさん褒めるようにしていますよ、笑 ただ、挨拶や礼儀作法については厳しく指導しています。これが1つしかるに当たるのですが、私は神拓道場が子どもたちにとって、棋力向上と同時に人間形成の場でもあって欲しいと考えています。

たくさん褒めるけれど礼儀作法は厳しく指導するという神戸さん
たくさん褒めるけれど礼儀作法は厳しく指導するという神戸さん

彰子:これだけの人数がいて、みんなが楽しそうに将棋を指している光景をみると、神戸さんの思いはきっと生徒さんにも伝わっていると思います。  

神戸さん:私だけの力ではありません。神拓道場のスタッフの皆さんが、私の思いに共感してくれて、それを実践してくれるからです。初心者の指導という意味では、ここにいる高橋さんが、その主軸を担ってくれています。高橋さん自身が、現在進行形で二人のお子さんの子育てをしているということもあり、子どもたちの気持ちを汲み取りながら上手く指導してくれています。

彰子:高橋さんのお子さんがもともと神拓道場の生徒としてここに通ってらしたんですよね。指導員になったきっかけはなんですか?

高橋さん:神拓道場に通い出したのは、子どもが将棋を始めたのがきっかけです。子どもというのは何かと飽き性なものなんですが、将棋に関しては1度も嫌だといったことがありませんでした。そこで、子どもの送り迎えもあるわけだし、どうせなら子どもをこんなに夢中にさせる将棋を私もやってみようと思いました。今では、新宿や千駄ヶ谷の将棋センターにも通ったり、大会に参加したりしているのですが、1年半前に神戸さんからお声がけいただきました。自宅でパン教室開催したり、結婚前は塾講師をしていたこともあり、元々人と関わることが好きなので、「それならぜひ!」ということでお手伝いさせてもらっています。 

彰子:新宿の将棋センターに通っているとは本格的ですね。高橋さんをここまで夢中にした将棋の魅力とは。

高橋さん:まるでマラソンのような正直さだと思います。もちろん個人差はありますが、やればやるほど前に進めるというのが将棋の魅力だと思います。私も0からのスタートで、最初のうちは子どもたちにもたくさん負けたし、息子に教えてもらったりしていました。でもこうした小さな一歩を重ねたことで、今では新宿や千駄ヶ谷の将棋センターで3級をもらうようになったり、この間の地元の支部大会では全勝できるようになりました。

彰子:それは素晴らしい実力です。お子さんを指導する上で何か心がけていることはありますか?

将棋教室を子どもたちが楽しめる場所にするように心掛けているという高橋さん
将棋教室を子どもたちが楽しめる場所にするように心掛けているという高橋さん

高橋さん:単純なことなのですが、子どもたちが楽しいな、また来たいなと感じれるような空気を作るのことが大事かなと思っています。 とにかく将棋自体を楽しんでもらうこと。例えば、相手が不快になるようなことをする子がいたら、嫌な先生だと思われても厳しく叱ります。将棋は相手がいてはじめて楽しめるものだし、一生懸命やっている子がいやな想いをして帰る場所になるのはさけたいので。

彰子: いい環境、いい卒業生、いいスタッフに囲まれて将棋を指せる子ども教室神拓道場の子どもたちはとても幸せだと思います( ^∀^)  

編集後記

浜松駅から赤電といわれる遠鉄を乗り、芝本駅下車。ねんりんピックのユニホーム姿で神戸さんが迎えにきてくださいました。  会場は、教会の中にあり、道場に入るとたくさんの子どもたちが元気に将棋を指していました。手前のテーブルにはおやつの準備がしてあったり、リーグ表に子どもたちの名前が書いてあったり、外遊びができたり、子どもたちが楽しく将棋を指せるように様々な工夫が施されていることが伺えました。 ちなみに、いつつが子どもたちの「楽しい!」にこだわって作った将棋テキスト「ほんとうに はじめての つめしょうぎ」も神拓道場に置いてくださっています。

じめての詰将棋を20冊まとめて購入し、番号をふって、  子どもたちに貸出ができるようにしてくれています   
じめての詰将棋を20冊まとめて購入し、番号をふって、 
子どもたちに貸出ができるようにしてくれています

元気な子どもたちと会えたので、せっかくなので一緒にお話したり、将棋を通じて交流を図ったりしました。

子どもたちと将棋で交流を図りました。
子どもたちと将棋で交流を図りました。

子どもは出入りができない道場も多かったため、子どもたちが安心して通える教室がほしいなと思ったのがきっかけとのことでしたが、こうして学校以外にも将棋を通して子どもたちが交流できる場があるのは大きなことだと思います。  また、神戸さんは子どもたちだけではなく、親御さんからの信頼も厚いようで、将棋だけではなく育児の相談も受けることもあるとのこと。 お子様を4人育てた先輩(お孫さんは14人とのこと!)のお話は 育児で悩むママにとってもありがたい存在に違いありませんね。

道場データ

道場名称 子ども将棋教室 神拓道場
場所 静岡県浜松市浜北区豊保157-17ライフリバーチャーチ浜北1Fキッズルーム
営業時間

毎週土曜日 :13:00〜17:30 (途中おやつタイム14:45〜15:30)

こちらの将棋教室では、「はじめての将棋手引帖」および「ほんとうにはじめてのつめしょうぎ」を使用していただいています( ´ ▽ ` )ノ

いつつHPに内にある将棋教室・道場検索では全国の将棋教室・道場を紹介しています。 子ども将棋教室 神拓道場もご登録いただいています(^ ^)  

この記事の執筆者中倉 彰子

中倉彰子 女流棋士。 6歳の頃に父に将棋を教わり始める。女流アマ名人戦連覇後、堀口弘治七段門下へ入門。高校3年生で女流棋士としてプロデビュー。2年後妹の中倉宏美も女流棋士になり初の姉妹女流棋士となる。NHK杯将棋トーナメントなど、テレビ番組の司会や聞き手、イベントなどでも活躍。私生活では3児の母親でもあり、東京新聞中日新聞にて「子育て日記」リレーエッセイを2018年まで執筆。2015年10月株式会社いつつを設立。子ども将棋教室のプロデュース・親子向け将棋イベントの開催、各地で講演活動など幅広く活動する。将棋入門ドリル「はじめての将棋手引帖5巻シリーズ」を制作。将棋の絵本「しょうぎのくにのだいぼうけん(講談社)」や「脳がぐんぐん成長する将棋パズル(総合法令出版)」「はじめての将棋ナビ(講談社)」(2019年5月発売予定)を出版。

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