株式会社いつつ

将棋を楽しむ 2019年8月20日

将棋の聖地、鳩森八幡神社に行って来ました。

金本 奈絵

「将棋の聖地」と呼ばれるスポットは、全国に様々にありますが、日本将棋連盟のお膝元、千駄ヶ谷に所在する鳩森八幡神社は、特に将棋に携わる人たちが足繁く通う場所の1つではないでしょうか。そこで今回のいつつブログでは、そんな将棋に所縁のある鳩森八幡神社を訪問し、禰宜の平野英二さん(以下平野さん)に、神社と将棋の縁や様々なエピソードなどについて詳しくお伺いしました。

将棋堂と鳩森八幡神社禰宜の平野さん
将棋堂と鳩森八幡神社禰宜の平野さん

将棋堂と王将の大駒

将棋に携わる者として鳩森八幡神社といえば、将棋堂というイメージです。将棋堂はどのような経緯で建立されたんですか?

平野さん:将棋堂の建立は1986年です。当時日本将棋連盟の会長だった大山康晴十五世名人が、約1メートル20センチの王将と書かれた大きな将棋駒を奉納してくださいました。同年、日本将棋連盟と神社で協力しあい、その大駒を納めるためのお堂を建立したのですが、それが将棋堂です。以来、棋力向上や将棋界の発展を祈願するたくさんの人たちがを参拝してくれるようになりました。

本当に大きな駒ですね。王将の文字も立派です。

平野さん:欅製駒で、山形県の香月さんという駒師が制作してくれたものです。王将の文字はもともと大山十五世名人が書いたものを駒師が彫り、漆で盛り上げた盛り上げ駒です。これだけの大きさですから、制作することはもちろん、将棋堂建立の際もかなり大変だったと思われます。

お堂の意匠も凝ってますね。

平野さん:駒を納めるお堂は六角形になっており、屋根の飾りはクチナシの実をモチーフにしています。脚付将棋盤の脚もクチナシの実になっていますが、これらは将棋の「口出し無し」というところからきています。また、内部には御影石でできた将棋盤が設置されており、その上に大駒が鎮座しています。そして駒の後ろに八幡の神様が祀られているんですよ。

将棋堂の屋根の飾りは、脚付将棋盤の脚と同じクチナシの実がモチーフに

年に1度の祈願祭

そうだったんですね。でも、せっかくこだわった造りが、お堂の扉を閉じたままだともったいないような気がしますが。

年に1度、祈願祭の時だけ御扉が開かれる

平野さん:お堂の扉をことを御扉というのですが、神社の通例として、御扉をご開帳するのはお祭りの日など特別な日に限られます。将棋堂の場合は、1年に1回、祈願祭の儀式が行われる3時間くらいだけです。なぜかというと、その方が新鮮味があり訪れる人にとっても感じるところがあるように思われるからです。

なるほど。確かに、その方がありがたみが増すような気がします。祈願祭について教えてください。

平野さん:祈願祭は毎年1月5日。5日が将棋連盟総務部のお休みときには6日になったり7日になったりすることもあります。この日に、将棋連盟会長をはじめ最前線でご活躍されるプロ棋士の先生方が複数名で将棋堂を訪れ、将棋界の発展を祈願します。そして、祈願祭の後は指し初め式といって、将棋連盟の特別対局室に場所を移し、プロ棋士の先生を相手に、一般の方が1手ずつ指し継ぎながら対局を行います。指し初め式は何名かに限られますが、祈願祭の方は棋士の先生方を囲む形で一般の方も見学できます。毎年、羽生善治九段や佐藤康光会長といったトップ棋士の先生もおられますよ。

将棋ファンにとっては夢のような顔ぶれですね。良い思い出にもなりそうですし、きっとたくさんの方が訪れるのではないでしょうか。

平野さん:将棋ブームの影響などにより、近年は参拝される方の人数が格段に増えました。ただ、参拝者が増えたのは祈願祭など特別な日だけではなく、何もない日も以前と比較すると5・6倍になりましたね。また、前までは訪れる方のほとんどが将棋ファンだったのですが、映画「3月のライオン」や「聖の青春」、ドラマ「盤上のアルファ」などの撮影現場となったこともあり、これまで将棋に興味のなかった方もたくさん来られるれるようになりました。特に、お子さんや親子の数が増えたように思います。親御さんは御朱印をもらいに、お子さんは将棋のお守りを買いに来られているみたいですね。

将棋指しの願いごと

将棋のお守り

将棋のお守り、私もすごく気になっていました.

平野さん:少し前に「そういえば、将棋のお守りないね」ということで製作させていただいたのですが、うまく将棋ブームのタイミングに合い、人気アイテムになりました。このお守りを目当てに来られる方も多いですね。鳩森八幡神社の将棋のお守りは2種類あるのですが、特にこちらの金色の方が人気です。もともと、東京オリンピックも開催されるということでオリンピックの金メダルをイメージしての金色だったのですが、将棋もいわば勝負事。金星を呼び寄せるという意味で縁起がいいのかもしれません。

どのような方が多いですか?

平野さん:先ほどお子さんがお守りを買いにこられると話しましたが、他にも、将棋教室の先生や女性の将棋ファンの方もよく来られます。東北のある将棋教室の先生なんかは、東京に仕事で来られた際に毎年生徒さんの人数分お守りを買って行かれたり、女性の将棋ファンの方の場合は、好きな棋士の先生や師匠にプレゼントするそうです。

どちらもすごく愛情を感じますね。実は今日対局見学のためにいつつ将棋教室の生徒たちも一緒に来ていたのですが、対局が始まるまでの時間に鳩森八幡神社を参拝しました。みんな何やら熱心にお祈りしていました。

熱心に願掛けをする子どもたち

平野さん:お見かけしました。子どもたちはどんなお願いをしたのでしょうか。私はよく将棋堂のまわりに吊るされた絵馬を見るのですが、将棋に携わる方の願掛けにはある傾向があるように思います。通常だと「勝ちますように」とか「大会で優勝できますように」といった神頼み的なお願いが多くなりそうなのですが、「大切な対局で自分の力がちゃんと発揮できますように」、将棋指しの方にはそう祈願する方が多いように思われます。運の要素が介入しない、完全実力社会の将棋ならではの傾向なのかなぁと感じます。

運が介入しない将棋、お願い事にはある傾向が

編集後記

子どもたちはどんなお願いをしたのかと平野さんに問われ、気になったので後日子どもたちに聞いてみました。子どもたちから返って来た答えは、「いっぱい勝ってプロ棋士になる」というものでした。

個人的な見解ですが、「勝つこと」より「自分の力を発揮すること」を願える人は将棋がかなり強い人だと思います。なぜなら、それだけ将棋についての鍛錬したという自負がないと、このような願い事ができないからです。私は、もちろん子どもたちが元気いっぱいに答えてくれた「プロ棋士になりたい!」というお願いも素敵だと思うのですが、同時にいつつ将棋教室の子どもたちも、この領域に到達できるといいなぁと感じました。

いつかいつつ将棋教室の子どもたちも日ごろの力が発揮できるように

本文でも少し触れましたが、当日は子どもたちと一緒に対局見学をしました。見学したのは、竜王戦本戦トーナメント、永瀬拓矢叡王と木村一基九段の1番でした。思わぬトップ棋士どうしのカードに私も子どもたちもとても緊張しました。

プロ棋士どうしの対局を見て、私が1番に感じたのは1手の重みです。日ごろみている子どもたちの対局とまるで違いました。それこそ、これまで積み重ねて来ただけの鍛錬をそこに乗せているかのように初手からじっくり指していました。

実際に見学できたのはたった2手だったので、時間としてはあっと言う間だったと思うのですが、その一瞬がとても長い時間のように思われました。

最後に、鳩森八幡神社と禰宜の平野英二さん、お暑い中にもかかわらず親切に取材に対応してくださり誠にありがとうございます。

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この記事の執筆者金本 奈絵

株式会社いつつ広報宣伝部所属。住宅系専門紙の編集記者を経て現在に至る。

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