株式会社いつつ

将棋を学ぶ 2016年3月4日

自ら負けを認めることが重要な5つの理由

中倉 彰子

将棋には3つの礼と言われるあいさつがあります。今日はその中のひとつ「負けました」について話たいと思います。

将棋が子育てに役立ちますよ、というアピールをする上で、私はよく「負けを認める」ということをお伝えしています。

将棋は自ら負けを認めるゲームで、第三者である審判や時間制限で決着がつくわけではないということが将棋の特色のひとつです。将棋は、一方が自ら負けを認めることで、対局が終了するのです。ちなみに、負けを認めることを将棋の用語では「投了」といいます。

ただ、自分から「負けました」と言える、つまり自ら負けを認めるということは、とても難しいことなのです。特に子どもにとってそれはとても困難らしく、我が家でもたまにあるのですが、負けた方は、相手がズルをしたとか、なんだかんだとイイワケして人のせいにしてしまう傾向があるのですよね。

そして、単に負けることと、自ら負けを認めることには大きな違いがあります。

私の将棋教室では、負けは気にしなくていいんだよ、たくさん対局をすることが大事、と口を酸っぱくするくらい言い聞かせています。親御さんの中には、負けるということに抵抗感がある方もいらっしゃるのですが、将棋で勝ち続けるということはありえません。あの羽生名人ですら、10回に3回くらいは負けているのですから…。

一方、負けを自ら率先して認めることは、とても大変なことです。なぜなら、負けたという事実を受け入れることはそんなに簡単なことではないからです。将棋教室や将棋大会でも、なかなか「負けました」が言えなかったり、投了の前に泣き出してしまう子も見かけます。

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ではどうして自ら負けを認めることが重要なのでしょう。その理由を5つ挙げてみます!

1. 次の成長に繋がる

自ら負けを認めるということは、自分の手に責任を持つということです。そして、自分の手に責任を持つということは、他人のせいにしないということに繋がります。他人のせいにできないから、自分自身で反省することになるんですよね。反省することで、次への成長に繋がっていくのです。

自分が負けてしまった理由を他人に求めてしまうと、なかなか反省に結びつかないんですよね。でも、自分でしっかりと反省することができれば、驚くほど成長できます。

それだけではありません。負けを認めることは、とても勇気のいることです。とても悔しいことですし、顔を背けたくなる現実があるかもしれません。負けを認めるということは、それを乗り越えるということ。そしてその悔しさをバネに、自ら成長したいという成長欲求を育むことにも繋がります。

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2. 他者を認めることができる

自ら負けを認めるということは、相手を認めることでもあります。他者を認めることで、自分に素直になることができますし、相手の強さを尊重することにもなります。謙虚さを学ぶことができます。

世の中は広いんだ、上には上がいるんだ、そういうことを子どもの頃から実感できるというのは貴重なことだなと思います。生きていく中でいろんな困難に直面するでしょうし、たとえば受験や恋愛などで負けてしまうことがあるかもしれません。そういった際に、世の中にはうまくいかないこともある、他者は自分より優れている側面がある、そういうことを謙虚に認めることができるようになるのではないかと思います。

3. 次の勝利の充実感・達成感が大きくなる

負けを認めると悔しいですよね! 私もそうです。とっても悔しいです。問答無用に審判に負けを宣告されるよりも、きっと悔しいのではないかと思います。私は、その悔しさを大切にして欲しいなと思っています。それによって、次に勝った時の充実感や達成感が増すと考えているからです。日本将棋連盟が発行している「将棋は脳を育てる」という小冊子で、脳科学者の茂木健一郎さんが

楽ばかりしていてはドーパミンはでません。苦労しながら、楽しいと思わないとでないんです。努力したうえで、勝ったときがうれしいわけですよね。

と述べていらっしゃいますが、本当にその通りだなーと思います。

負けてばかりだと、やっぱり面白くないですよね。将棋を指すからには、勝ちたいもの。勝った時の充実感を噛みしめて、将棋を続けていってくれればいいなと思っています。

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4. 気持ちの切り替えができるようになる

将棋はある一定のルールのもと、対局がおこなわれます。世の中にも、さまざまなルールがあって、なければもっと楽なのに、とか自分ではどうしようもないこと、変えることができないことに悩んだりしてしまうことがあります。ですが、将棋のルールを変えるのは私には無理なので、与えられたルールの中で自分はどう成長するのかを考えることになります。

思い通りにいかない時、ルールのせいにするのは簡単なのですが、それをせずにあくまで自分はどのように変われるのか、という観点で物事を考えるクセがついたように思います。そうなってくると、私が意識して変えることができるのは私しかいないので、必然的に気持ちを切り替えることにつながってきます。

(このことに関しては、こちらの記事でも触れています。こちらも併せてご覧ください。)

私は将棋を通じていくつもの小さい挫折体験を積み重ねてきました。そのお陰もあって、いつつをたちあげて活動していく中で、うまくいかないこともたくさんあり、落ち込んだりもしますが、寝て起きたら切り替わっていることがほとんどです(^^)

あと、オマケです。例えば恋愛編。私も若かりし頃失恋をして落ち込みましたが、自分を磨くことで他にいい人もいるかなと切り替えることができました。将棋をしていれば、大きな挫折にも負けません! ちょっと違うかな?(^^)

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5. 対局が終わりません(^^)

そして、将棋は「負けました」で終局するゲーム。王様が詰んでいるのに「負けました」を言うことができなくてじーっと耐えているお子さんを大会などでもしばしば見かけますが、それでは対局が終わりません。時間切れまで粘るのはあまり美しい所作とはいえませんね。

誤解しないでいただきたいのですが、負けと劣勢・敗勢は違います。チャンスがあるうちは負けを認める必要はありませんし、早く投了することを勧めているわけではありませんよ。粘って考えて、それでも負けてしまった時には、しっかりとした声で「負けました」と言えるようになるといいですね。負けることは、恥ずかしいことではないのですから(^^)親御さんや指導者の方も子どもたちがちゃんと負けましたをいうことができたら褒めてあげてください

将棋はこのように、お子さまの成長の上でも、非常に重要な「礼儀作法」や「負けを認めること」の大切さを教えてくれるゲームです。

将棋教室に通う子どもたちには、教室での対局だけではなく、相手の顔が見えないオンラインでの対局でも、必ず最初のあいさつと投了はやるように指導しています。

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この記事の執筆者中倉 彰子

中倉彰子 女流棋士。 6歳の頃に父に将棋を教わり始める。女流アマ名人戦連覇後、堀口弘治七段門下へ入門。高校3年生で女流棋士としてプロデビュー。2年後妹の中倉宏美も女流棋士になり初の姉妹女流棋士となる。NHK杯将棋トーナメントなど、テレビ番組の司会や聞き手、イベントなどでも活躍。私生活では3児の母親でもあり、東京新聞中日新聞にて「子育て日記」リレーエッセイを2018年まで執筆。2015年10月株式会社いつつを設立。子ども将棋教室のプロデュース・親子向け将棋イベントの開催、各地で講演活動など幅広く活動する。将棋入門ドリル「はじめての将棋手引帖5巻シリーズ」を制作。将棋の絵本「しょうぎのくにのだいぼうけん(講談社)」や「脳がぐんぐん成長する将棋パズル(総合法令出版)」「はじめての将棋ナビ(講談社)」(2019年5月発売予定)を出版。

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