将棋を学ぶ

2016年12月9日

ハンディを気負わず恐れず〜「駒落ち」するといい5つの理由〜

将棋でいう「駒落ち」とは、いわゆる「ハンディキャップ」のようなもので、上手(強い方)が、全部で20枚ある持ち駒のうち、数枚落とした状態で対局を行うことを指します(将棋では、駒を落としたほうが上手(うわて)、落とされたほうが下手(したて)といいます)。

将棋道場などに通うと、道場の担当者が二人の棋力を見極めた上で、どちらが何枚どの駒を落とすのかという手合いをつけてくれるわけですが、実は将棋をする人の中には、この「駒落ち」が嫌だという人が少なくありません。

しかしながら、本来「駒落ち」は、上手にとっても下手にとっても、棋力を上げる上では欠かすことのできないとても大切な練習法です。

それではなぜ駒落ちを嫌うのか、その理由について尋ねてたところ、「相手にハンディキャップをつけてもらうのは屈辱的だ」、「平手に慣れているので、駒落ちだとどのように指せばいいのか分からない」、「実践で役に立たなさそう」「駒落ちの定跡を覚えるのが嫌だ」など様々でした。たしかに、お隣の囲碁の世界は、ハンディのつけかたが、「置碁」と言って、下手のほうが石をさきに数個置いてつけるのに対し、将棋は、駒を「落とす」というのが、どうも抵抗を感じてしまう所以かもしれませんね。

そこで今回のいつつブログでは、なぜ駒落ちで対局をするといいのか、その理由についていくつか紹介したいと思います。

駒落ちは棋力アップのために必要不可欠な勉強法
駒落ちは棋力アップのために必要不可欠な勉強法

1.棋力に差があってもいい勝負ができる

そもそも、ハンディキャップをつける目的は、両者の実力を均衡にして、どっちが勝つのか分からないようにするためです。将棋に限らず、ボロ勝ちしたりボロ負けするよりも、ギリギリのせめぎ合いを制して勝利する方が喜びは大きく、あと一歩のところで勝ちを逃す方がより悔しいのではないでしょうか。

将棋の場合、二人の棋力の差がありすぎると、序盤の段階でかなりの駒損をしてしまったり、一方的に自陣に攻め入られたりと、下手側にとって最後までモチベーションを維持するのが難しい展開になってしまいます。また、上手側にしも、集中力やモチベーションを欠いた相手に勝ってもそんなに嬉しくはないですよね。将棋もやっぱり「勝つのかな」「負けるのかな」とハラハラドキドキする方がずっと対局を楽しめるし、楽しいからこそ続けたいと思うものですよね。

2. どれだけ上達したか実感できる

将棋の棋力というものには、陸上の100メートル走のように「タイムが何秒早くなった」など、明確な測定基準があるわけではありません。そのため、目標を設定するのが難しく、また自分がどれだけ上達したのかというのも分かりにくいと思います。

その点、駒落ちのシステムは、まずは10枚落ち(上手の持ち駒が歩兵9枚+王将)、次は8枚落ち(上手の持ち駒が歩兵9枚+王将+金将2枚)、その次は6枚落ち(上手の持ち駒が歩兵9枚+王将+金将2枚+銀将2枚)・・・・と、具体的な目標が立てやすく、自分がどれくらいの位置に到達しているのかということもなんとなく把握することができるかと思います。

私も将棋を覚えたての頃は、よく父に駒落ちで指してもらっていました。最初は10枚落ちだったけど、対局を重ねるうちにだんだんそのハンディが埋まっていくのがとても嬉しかったように思います。

もし、棋力があまりないうちから上手相手に平手で指していると、何度も負けを繰り返し、そのうち「なんで毎日練習しているのに強くならないんだ」と不安に感じたり、将棋に対する気持ち自体がくじけてしまうということもあり得ますよね。

3.勝つための方法を少しずつ身につけることができる

これは特に下手の人にいえることだと思います。

基本的に駒落ちでの対局の場合、上手の弱点を突くような戦い方をするわけですが、上手の駒が少ないうちは、まず駒のないところを攻めるというのがセオリーになります。しかし、相手の駒が少し増えた手合いになると、駒のないところを突くだけでは攻めきれなくなり、今度は自分の仲間を連れてきて一緒に攻めるということを覚えます。さらに、相手の駒がもっと多くなると、今度は相手が自分の駒を使って自陣へと攻め込んできます。そうなると今度は、自分の玉を守らなければならなくなるので、囲いの作り方を覚えます。

駒落ちの対局では、このように、段階にそって必要なセオリーが学べます。例えば角落ちになると、下手が上手の攻めをうまく受けないといけないので受け方の練習になります。手合いにより様々な形や戦い方をじっくり身につけていくことができるわけですが、平手、それも上手を相手にしている場合は、相手の出方次第でどのタイミングでどの戦い方を使うのか適宜判断せねばならず、棋力がまだ十分でない段階ではそれはとても難しく、また、そんな余裕もないと思います。わけがわからないうちにあれよあれよという間に負けてしまい、せっかく覚えた戦法をなかなか実践で使えず、身に付くまでに時間がかかってしまいます。

駒落ちすると勝つためのセオリーを段階で学べます。
駒落ちすると勝つためのセオリーを段階で学べます。

4. 大駒以外の駒を最大限に生かせるようになる

駒落ちは、ハンディキャップをつけることで、下手でも上手に勝てるチャンスを作るものであり、上手にとってはそんなにメリットがないと考えている人も中にはいると思います。しかし実際には、駒落ちは上手側にとっても、実践で生かせるようなメリットがたくさんあります。

そのメリットの一つが「小駒の生かし方を覚えることができる」ということだと思います。当然のことですが、駒落ちの対局で、上手側が勝とうと思えば、手持ちの駒を最大限に生かす工夫を凝らさなくてはなりません。

将棋の格言の中には「歩のない将棋は負け将棋」や「一歩千金」というものがありますが、これらの意味はどちらも、たとえ最も安い駒であっても、一歩を大切にしなさいという意味ですが、将棋が強い人ほどこの格言の意味をよく理解し、小駒の大切さや活かし方を知っています。

下手のためにやっているとは思わずに、上手にとって駒落ちはさらに自分の棋力を上げるためのチャンスだと捉えてみてはいかがでしょうか。

5. 王の逃げ方がうまくなる

実は駒落ちでの対局において、1つだけ上手側にとってのメリットがあります。それは、王の動けるスペースが下手と比較して広いということです。このメリットを利用して王を中段まで持っていくことができれば、そう簡単には相手に捕まることはありません。

そして、この指し方をしっかり練習しておくと、実際に平手どうしで対局を行ったとき、詰むか詰まれるかの終盤の場面で生きてくると思います。お互いそれなりに棋力があるもの同士だと終盤戦はどちらも玉と王に迫っていることかと思うのですが、「捕まえる」だけではなく「逃げる」ための訓練をしているかどうかで勝負の明暗を分けることもあるかと思います。

さて、今回は駒落ちをするといい理由について5つ紹介させていただきましたが、いかがでしたでしょうか?

他にも、先崎学さんの書籍『最強の駒落ち』(講談社現代新書)には、将来の棋友(将棋のライバルや友だち)を育てられるというのもありました(^ ^)

ただ、駒落ちは将棋の棋力アップのためには重要な練習法だと言ったものの、そんなに気負わなくてもいいというのが個人的な意見です。

例えば、冒頭の方にあった駒落ちを嫌がる理由について、「駒落ちの定跡を覚えたくない」というものがあったのですが、実際に私も将棋教室で教えている生徒さんから、平手の振り飛車が好きなので、振り飛車で戦いたいというリクエストを受けました。確かに定跡を覚えてしまった方が効率よく勝てると思うのですが、将棋も駒落ちも楽しくするのが1番だと考えているので、駒落ちの定跡を覚えることを無理強いしませんでした。

また、「相手にハンディキャップをつけてもらうのが屈辱的だ」という理由もありましたが、駒落ちされることについてそんなに深刻に受け止めなくても大丈夫です(^-^)

きっとプロ棋士の中に駒落ちを体験したことがないなんて人は一人もいないと思いますし、あの羽生善治三冠も、将棋道場に通い出した頃はいつも席主にたくさん駒を落としてもらって対局していたと、ご自身の著作「挑戦する勇気」(朝日新聞社)で語っています。

というわけで、駒落ちでハンディをつけたり、つけられたりすることについて「ハンディをつけられるなんて悔しい」と気負う必要もなければ、「駒落ちの定跡を覚えなくてはならない」とか「ハンディをつけて負けたらどうしよう」と恐れる必要もありません。

普段の将棋と同じように楽しみながら、駒落ちを続けていくことで、長い目で見るときっとそれが棋力アップにつながっていくんだと思います。

駒落ちを気負わず恐れず
駒落ちを気負わず恐れず

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この記事の執筆者中倉 彰子

株式会社いつつ代表取締役、女流棋士。女流アマ名人戦連覇後、94年高校3年生で女流棋士としてプロデビュー。プロとして公式戦を戦うだけでなく、NHK杯将棋トーナメントなどテレビ番組の司会や聞き手、イベント司会などでも活躍。私生活では3児の母親でもあり、育児と仕事の両立に奮起。2007年日本女子プロ将棋協会設立に参画。事業部長として、地域や子どもたちに長く親しまれるイベント作りを心がけている。子育てエッセーを地方紙7新聞に連載し、近年は将棋と知育・育児を結びつけるような活動を広く展開。2015年10月株式会社いつつを設立、代表取締役に就任。女流二段。法政大学人間環境学部卒。@AKIKOPDG

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