株式会社いつつ

連載:全国将棋道場巡り 2016年9月3日

日本で1番敷居の低い道場を目指して〜将棋の森に行ってきました〜

中倉 彰子

「将棋の森」は、今年6月1日にオープンしたばかりの将棋道場。

「初めての方や級位者が安心してこれる将棋道場」というコンセプトや、これまでの将棋道場にはなかった、快適でお洒落な空間デザインがたくさんの人の共感を呼び、クラウドファンディングで3,548,000円もの支援金を集めました。

そこで今回のいつつブログ「全国将棋道場めぐり」では、将棋の森の運営者である女流棋士・高橋和さん(以下和さん)にお話を伺いました。

将棋の森を運営する女流棋士の高橋和さん。
将棋の森を運営する女流棋士の高橋和さん。

「将棋の森」ができるまで

中倉彰子(以下彰子):「将棋の森の構想は前からあったの?」

和さん:「数年前からあったかな。私が将棋の指導を行う場所が下北沢、吉祥寺、自宅と分散していたので、バラバラのものを1つにできないかなと。また、以前から将棋道場についてもっと敷居を低くして誰でも来やすい場所を作りたいなと。」

彰子:「将棋の森のプランができたのは今年の1月頃だったよね。短い期間でこれだけのものを作ってしまうなんてすごいね!」

和さん:「今年がちょうど40を迎える、私にとって節目の年なので、今じゃなきゃ頑張れないような気がして(^^)。正直なところ、今年1月の段階では、構想はあるもののこれからどのようにすべきかと悩んでいたんだけど、そんな折にちょうどいい物件が見つかって。また、その物件が借りられそうだという連絡を受けた日に、定食やさんで昼食を食べていたところ、隣に座っていた人が将棋好きだったようで私に声をかけてくれたのですが、その人がたまたま内装デザイナーをされていて、今回、将棋の森の空間プロデュースを担当してくれたの。さらに今回クラウドファンディングを手伝ってくれた方が、たまたま私の自宅のご近所に住んでいたりと色んな偶然が重なって今に至る感じです。」

彰子:「ドラマみたいだね! クラウドファンディングでは目標値を大きく上回る支援金が集まったんだね。」

和さん:「もともと道場設立にあたりクラウドクラウドファンディングをする予定はなかったんだよね。でも、資金集めではなく、『こういうことをやりたい』という思いの部分をより多くの人に知ってもらいたくて、宣伝的な意味合いでクラウドクラウドファンディングを活用したのですが、予想以上にたくさんの方にご賛同いただけたみたいでとても嬉しく思います。」

彰子:「デザイナーの方が道場の空間をトータルプロデュースしたとのことですが、壁など部屋の内装やインテリアがとても素敵♪ 和ちゃんのこだわった部分とかはありますか?」

和さん:「通常の将棋道場の敷居の高さの原因の1つとして、少し硬いイメージがあるのかなって思っていました。なので、将棋の森をつくるときは、初めて訪れた人でも入りやすいような柔らかさを意識したかな。ちなみに、『将棋の森』というネーミングもそういった部分を意識してつけました。TVをおいたのも、スポーツカフェのようにみんなで将棋の対局観戦をしたり、ニコ生を見れるようにしたり、机1つとっても、将棋盤を置いてちょうどいい高さになるように、少し低めにオーダーメイドしています。」

高さにこだわったオーダーメイドの机
高さにこだわったオーダーメイドの机

彰子:「いま子どもたちが指している盤駒は木ですね。これもこだわりですか?」

和さん:「はい。日本伝統文化の将棋としての木の文化を大切にしたいと思っています。」

子どもたちが楽しく将棋するための工夫

彰子:「今は夏休み期間中で、子どもさんがたくさん来ていますね。子どもたちもみんな和気あいあいと将棋を指しているね。」

和さん:「夏休み期間中は子ども向けにフリーパスを用意しています。やっぱりたくさん指さないと強くなれないからね。」

彰子:「この表は何かな?」

和さん:「これは100敗表です(^^)。通常は1勝すればスタンプがもらえるのですが、うちはその逆。対局で勝てば当然嬉しいじゃない?でも、この表は負けないとつけることができないっというものです。さらに、通常道場の級位は15級からですがうちでは30級からあったり、他の大会で入賞経験のない子に参加権利を絞った将棋大会を毎月開催したりしています。6月開始なのでまだ3回目だけど、参加人数も徐々に増えてきていますよ。」

負けるとスタンプをもらえる仕組みのスタンプラリー
負けるとスタンプをもらえる仕組みのスタンプラリー

誰でも気軽に来れる道場を目指して

彰子:「道場にはどのような方が多く来ますか?」

和さん:「印象としては比較的若い方が多いかな。将棋の森の広告を基本的にweb上でしか行っていないので、ネットユーザー世代の方ですね。その分ご年配の方はあまり来られないのですが、他の将棋道場と上手く住みわけているんじゃないかなと思っています。あとは、初心者や級位者がメインになりますね。月に2回ほど将棋を始めて指す方に向けての無料体験教室を開催しているのですが、それは女性の方にすごく好評です。意外にもネットのアプリはやったことあるけど、実際に盤駒を使って対面で将棋をしたことがないという方が多くて、手付きこそおぼつかないものの、実際対局をやってみるとけっこう強かったりして、笑」

彰子:「ネットのアプリで将棋を指すことについてはどう思う?

和さん:「私はアプリで将棋を指すこと自体悪いことだと思っていません。アプリと実際に盤を挟んでする将棋では、楽しみの種類が違うのかなと。ただ、こうしてネットのアプリを入り口にしている人がいることを考慮すると、将棋を楽しめる人の潜在的な人数はすごく多いんだと思います。私は将棋の森がこのような人たちが、実際に将棋を楽しむためのきっかけになればいいなと思っています。」

彰子:「先ほど級位者や初心者の方がメインと言っていたけど、逆に将棋経験者、強豪の方はあまり来ない?」

和さん:「もちろん有段者の方も来られますよ。でもうちの場合は、より強い対局相手を求めて、というようなガチンコの方はあまりこないかな。みんな単純に将棋を楽しみたい方ばかり。なので有段者の方には級位者の指導にあたってもらうことも多いんです。有段者の方には最初に将棋の森では初心者や級位者がメインだとお伝えした上でそれを好意的に受け取ってもらっているので非常に助かります。」

彰子:「いつつでも子どもやママたちが楽しく将棋できるということをとても大切にしています。子どもや女性にももっと将棋の魅力が伝わるといいよね(^ ^)」

和さん:「そうだね。女性や子どもに将棋を教えるのってすごく楽しいよね。ある程度将棋の強い人だと何でも自分で研究しちゃって、私たちが出来ることってほとんどないじゃない?なので、私はどちらかというと将棋の森から強い棋士を排出することよりも、将棋に全く興味のない人がどうすれば将棋を楽しめるようになるのか、将棋の裾野を広げる活動をしたいなと考えています。」

彰子:「具体的にはどのようなことを心がけていますか?」

和さん:「私はずっと将棋の世界にいたので、道場のシステムとか雰囲気とかが当たり前になっていたんですが、『道場に行くのに事前予約は必要ですか』みたいな問い合わせを受けた時に、ハッと私たちにとっては当たり前のことでも他の人にとってはそうじゃないんだなぁって気付かされます。」

彰子:「あー確かに、道場に行かないという人の話を聞くと、問い合わせのといきなり棋力はどれくらいかと聞かれて意気消沈してしまったとか、すぐ負けてしまうと申し訳ないような気持ちになるなどの意見を聞いたことがあります。」

和さん:「私は、せっかく将棋に興味を持ってくれた人がそのことが理由で将棋から去ってしまうのは勿体無いなと思います。だからこそ、将棋の森がそういう人たちにとっての受け皿になるといいなと思っています。」

女性や子どもが気楽に将棋を楽しめる雰囲気作りがされています
女性や子どもが気楽に将棋を楽しめる雰囲気作りがされています

「将棋の森」の今後について

彰子:「将棋の森は今後どのように進化していきますか?」

和さん:「正直なところ将棋の森の計画が動き出して以来毎日必死で、自分がしていることを振り返ったり、先を見る余裕が全然なかったんだけど、オープンから約3ヶ月経ち少しづつ目標が見えてきた感じかな。まず1つは、潜在的に将棋を楽しめる人たちにできるだけ将棋を楽しんでもらいたいということ。次に、指導者の育成です。将棋の森では有段者の方が級位者に将棋を教えるという構図が成り立っています。私は将棋を指導する上で指導者がプロである必要はないと思っています。将棋が強くなる方法や戦略ではなく、どうやって将棋を楽しむのか、またいかに将棋は楽しいものなのか、それを初心者の方や子どもたち、女性に伝えられるような指導者を増やしていきたいなと考えています。」

日本一敷居の低い将棋道場を目指したいと話す和さん
日本一敷居の低い将棋道場を目指したいと話す和さん

編集後記

同級生なので普段は和ちゃんと呼んでいます。
同級生なので普段は和ちゃんと呼んでいます。

和ちゃん(同級生のよしみで呼ばせてもらいます(笑))は、中学生での女流棋士デビュー。私よりずっとはやくプロ入りしたので将棋界では大先輩です。

その和ちゃんが、将棋の森を手がけていると知り、きっと素敵な空間を作るに違いないと思っていたら、本当に素敵でした(^ ^)

インタビュー途中で印象的だったのは、子ども同士ちょっとケンカになりそうなシーン。そこへ「森のおねえさん」と呼ばれるお姉さんが、優しく仲裁に入り子どもたちは見事に仲直りしていまいした。

子どもたちは、将棋を通して、学年の違う子ども、また年代の違う人とふれあうことで、学校とはまた違った人間関係が育まれることと思います。年代の違う人同士がふれあうことができるのも道場ならではですよね。

本当に将棋は世代を超えて楽しめるツールです。

和ちゃんも私もお互いママになり、仕事と育児の両立の大変さ、よくわかります^^。でもお話を聞いていると、忙しい中でもとても充実していて、何よりも楽しんで「将棋の森」を育てている様子が伝わってきました。

きっとその楽しさが、ここにくる子どもや女性たちに伝わって、素敵な空間ができているんだろうな、と改めて思いました。

これからも、将棋の森に注目ですね!

道場データ

道場名称 将棋の森
場所 東京都武蔵野市吉祥寺南町2-3-16
バローレ吉祥寺302
営業時間

最長時で10:00〜22:00

詳細はHPにて要確認

定休日 毎週木曜日

高橋和さんが、日本で1番敷居の低い将棋道場を目指して作ったのが「将棋の森」、いつつが日本で1番敷居の低い将棋テキストを目指して作ったのが「はじめての将棋手引帖」です( ´∀`)

他にもいつつブログでは、様々な将棋道場を紹介しています。ご興味あれば、ぜひご一読ください(^ ^)

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この記事の執筆者中倉 彰子

中倉彰子 女流棋士。 6歳の頃に父に将棋を教わり始める。女流アマ名人戦連覇後、堀口弘治七段門下へ入門。高校3年生で女流棋士としてプロデビュー。2年後妹の中倉宏美も女流棋士になり初の姉妹女流棋士となる。NHK杯将棋トーナメントなど、テレビ番組の司会や聞き手、イベントなどでも活躍。私生活では3児の母親でもあり、東京新聞中日新聞にて「子育て日記」リレーエッセイを2018年まで執筆。2015年10月株式会社いつつを設立。子ども将棋教室のプロデュース・親子向け将棋イベントの開催、各地で講演活動など幅広く活動する。将棋入門ドリル「はじめての将棋手引帖5巻シリーズ」を制作。将棋の絵本「しょうぎのくにのだいぼうけん(講談社)」や「脳がぐんぐん成長する将棋パズル(総合法令出版)」「はじめての将棋ナビ(講談社)」(2019年5月発売予定)を出版。

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