株式会社いつつ

連載:全国将棋道場巡り 2019年1月17日

棋力の差を生むのは勝利への意識〜つくし子供将棋塾〜

中倉 彰子

全国津々浦々、女流棋士中倉彰子(以下彰子)が全国の将棋教室・将棋道場を取材する「全国将棋道場巡り」。今回は福岡県にあるつくし子供将棋塾にやって来ました。お話をうかがったのは、同将棋教室で普及指導員を務める鬼木幸市さん(以下鬼木さん)です。福岡県の子どもたちへの将棋普の第1歩となったご活動について、詳しく語って頂きました。

将棋指導のきっかけは小学校のクラブ活動での指導から

彰子:子どもたちの将棋を指導するようになったきっかけはなんですか?

鬼木さん:地域の方の要望により筑紫野で将棋の指導にあたることになりました。指導をはじめて見て驚いたことなのですが、道場には大人はたくさんいるのに、子どもたちがほとんどいませんでした。そこで、まずは将棋部のある学校を探したのですが、たまたま近くで見つかり月に1回、定期的に将棋の指導に行くようになりました。

彰子:鬼木さんの将棋指導の始まりはクラブ活動だったんですね。

鬼木さん:はい。本当にささやかな活動だったのですが、子ども将棋教室というより子どもも受け入れているという感じだったのですが、当時九州に子どもが将棋を指せるような場所がほとんどなかったということもあり、福岡や佐賀といった遠方からも子どもたちが集まるようになりました。大人も含めるとあっと言う間に100人を超えるようになったので、当時は、150人くらい収容できる農協の会場をかりていました。

彰子:たくさんの子どもたちが集まれる場所は貴重だったのですね。

鬼木さん:農協時代は講師も子どもたちも本当に強かったように思います。プロの道には進まなかったものの、中学校で三冠王を獲るような子どもさんもいました。その後、福岡支部と筑紫野支部として続いています。

彰子:奨励会を目指すようなお子さんの指導も大変ですが、初心者のお子さんの指導はまた違った難しさがあるように思います。

壁には名札と昇級規定が貼られています。
壁には名札と昇級規定が貼られています。

棋力の差を生むのは勝利への意識

鬼木さん:うちは初心者級位者がほとんどですが、棋力が上がってきたら、福岡将棋会館へ行ってもらいます。

彰子:駒の動きをまったく知らない子はどのようにしていますか?

鬼木:将棋のルールをまったく知らないお子さんが来られた場合は、パンフレットを渡して、お父さんやお母さんから子どもたちに伝えてもらうようにしています。ルールを覚えた後にくる教室という感じでしょうか。

彰子:なるほど。いつつ教室でも「い・ろ・はコース」とクラスを分けています。ルールを覚える子は「いコース」、その後は駒のテクニックなどは「ろコース」、戦法を覚えるのは「はコース」です。確かに、ルールを知らない子とちょっとさせる子が同じ時間でまざってしまうと、指導も大変ですものね。お子さんの指導で意識していることはありますか?

鬼木さん:私は、子どもたちに棋力の差がつくポイントは「勝つ」ということへの意識の差だと感じています。入門者は取れる駒を取らなかったり、まだ「勝つ」という意識が出来上がってないからです。

とはいえ、将棋を指す子どもたちを育てるというのも私たちの大切な役割だと思っています。将棋の基礎が理解できるようになったら、指導対局や自由対局などを通じてアドバイスをします。私の指導について、その時子どもたちが全て分からなくても、1つ・2つでも応えてくれたら十分だと考えています。そしてとことん指すことで、その1つ・2つを積み重ね、それが勝つ喜びに繋がれば、子どもたちにとって糧になるのではないかと考えています。

どれだけ勝ちたいかという気持ちが棋力の差を生む
どれだけ勝ちたいかという気持ちが棋力の差を生む

彰子:鬼木さんも、勝つ喜びを重ねて、将棋の腕を研鑽されてきたんですか?

鬼木:私は小学校5・6年の頃に人が指しているのを見て将棋を覚えたのですが、初めて2つ年上の中学生に勝てた時、とても嬉しかったです。それから、17・18歳くらいまで将棋を続けていましたが、まわりで張り合いが持てる相手がいなくなり、同時にそれ以降将棋部に所属したり大会に出たりということはなくなりました。

恐らく、この時、勝つ喜びが薄れてしまったのだと思います。ただ、本質的に私は競争が好きなので、大人になってからも陸上や野球といった勝負事を見ていました。そして、その後、再び将棋を指す人と出会う機会があり今の道に進みました。将棋指導者になってから20年、未だ「将棋の指導法におけるベストな答え」は見つかっていませんが、これからもその答えを見つけ出し、是非ともこの命題に勝利したいと思います。

編集後期

インタビューをさせていただいたのは、教室の始まる前の時間でしたが、早めにきて各自で将棋を指し始めている子もいました。お手伝いをしている方がいらっしゃたので聞いてみると、通っているお子さんの保護者の方でした。自分の子どももいるので、一緒に子どもたちの面倒をみてくださっているようです。若いお父さんが見守ってくれたり、時には手合を仕切ったりしてもらえるとは頼もしいですね。

時間になったら子どもたちは階段をかけあがり、この対局スペースに来て、自発的にお友達と対局するようなスタイル。保護者の方なども含めた、地域に目指した教室なんだなぁと感じました。子どもたちと一緒に写真を撮ったり、お話をしたり、短い滞在時間でしたが、とても楽しい一時でした。

道場データ

道場名称 つくし子供将棋塾
場所 福岡県筑紫野市二日市中央1-2-7
営業時間

毎週土曜日・日曜日 10:00~12:00

いつつHPに内にある将棋教室・道場検索では全国の将棋教室・道場を紹介しています。 つくし子供将棋塾もご登録いただいています(^ ^)  

この記事の執筆者中倉 彰子

中倉彰子 女流棋士。 6歳の頃に父に将棋を教わり始める。女流アマ名人戦連覇後、堀口弘治七段門下へ入門。高校3年生で女流棋士としてプロデビュー。2年後妹の中倉宏美も女流棋士になり初の姉妹女流棋士となる。NHK杯将棋トーナメントなど、テレビ番組の司会や聞き手、イベントなどでも活躍。私生活では3児の母親でもあり、東京新聞中日新聞にて「子育て日記」リレーエッセイを2018年まで執筆。2015年10月株式会社いつつを設立。子ども将棋教室のプロデュース・親子向け将棋イベントの開催、各地で講演活動など幅広く活動する。将棋入門ドリル「はじめての将棋手引帖5巻シリーズ」を制作。将棋の絵本「しょうぎのくにのだいぼうけん(講談社)」や「脳がぐんぐん成長する将棋パズル(総合法令出版)」「はじめての将棋ナビ(講談社)」(2019年5月発売予定)を出版。

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