将棋を教える

2018年2月21日

将棋初心者の子どもたちに指導対局を行うときのポイント

指導対局とは、実戦(対局)を通して行う指導を指します。

指導対局とは実戦を通じて指導を行うことを指します。
指導対局とは実戦を通じて指導を行うことを指します。

将棋教室などでは、講師が生徒と対局をしながらアドバイスを出したりするのですが、指導対局の機会は、講師にとって日頃子どもたちに教えていることがどれだけ定着しているのか確認するための大切な場であると同時に、子どもたちにとっても直接先生に教わるレッスンなので、普段以上に色んなことが吸収できる絶好のチャンスになります。

ですので、将棋を教える身として、できる限り指導対局をちゃんと子どもたちにとって充実した内容にしたいと考えています。私が子どもたちの指導対局時に特に意識していることは、指導する子どもの棋力・性格などに応じて指導の仕方や、ポイントの伝え方、伝えるタイミングを変えることです。せっかく直接教えることができる場面ですので、できる限りその子に合った指導ができればと考えています。

そこで今回のいつつブログでは、指導対局の中でも、特に将棋初心者の子どもたちとの対局時に、私が心がけているポイントについてお話したいと思います。どれも、子ども将棋教室で実践して「効果があるかも」というものを書きました。もしかすると、子どもの指導対局について違った方針をお持ちの方もいらっしゃるかもしれませんが、興味があればぜひ1度試してみてください( ´∀`)

1.駒落ちの段階を分ける

指導対局において、駒落ち(上手側の駒を減らしてハンディキャプをつける)をして指導することは多いですが、私が将棋教室の初心者の子どもたちと対局をするときは、「初心者」と一括りにするのではなく、「駒の動かし方とルールを覚えたばかり」「将棋が指せる」「考えて将棋が指せる」の3段階に大まかにわかれるかなと思っています。

まず、「駒の動かし方とルールを覚えたばかり」の子どもたちには、玉を詰ませるということを覚えてもらいたいので、この段階の子どもたちと対局を行う時の私の駒は玉1枚です。

駒の動かし方を覚えたばかりの初心者の子どもたちには玉1枚
駒の動かし方を覚えたばかりの初心者の子どもたちには玉1枚

将棋初心者の子どもたちは、駒の動きはわかるけど、それをどのように動かして良いかわかりません。40枚もありますからね。無理もありません。特に多いのが、動き方が1番わかりやすい「歩」ばかりを動かす子どもたちです。でも歩ばかりではつまらないので、「他にもいろんな駒があるよ。その駒たちも動かしてみようか。」と声をかけます。こうして、8種類の駒を動かす体験をしてもらいます。

また、飛車は子どもたちに人気の駒ですが、私は最近「最初の段階の子には、桂が人気なのでは?」と思うようになりました。桂の特徴的な動きや早く敵陣にたどり着くことができる、という点で歩のわかりやすさの次いで子どもたちが動かしたくなる駒のようです。ぴょんぴょんと上手に動かすことができるとちょっと達成感もあるのかもしれませんね。ただ、将棋は、駒をただ動かすゲームではありません。本来の目的である「王様を捕まえること」を意識させないといけません。王様1枚の駒落ちは、その目的を達成するために一番わかりやすいような気がします。

6枚落ちの実例はこちらでご紹介しています

次に「将棋が指せる」段階に入った子どもたちについて。このレベルの子どもたちには、玉と歩9枚の合計10枚の駒で対局を行います。

将棋初心者の子どもたちが、「玉を捕まえる」の次に対峙するのが「駒を交換する」のハードルです。まだ対局に慣れていないと、相手に自分の駒を取られるのが嫌だという心理が働きどうしても攻めあぐねてしまうことがあります。

☗2四歩の局面
☗2四歩の局面

飛車先の歩をつく☗2四歩という手を教えると「えー歩が取られちゃう。」と思ってしまうようなのです。すぐに☖2四飛と取り返せるよ、と伝えると「あーそうか。」となります。

☖8六歩の局面
☖8六歩の局面

これは、平手戦に置いても子供同士の対局でもあるあるなのですが、相手に☖8六歩と着かれても「取らない」ことがあります。「なんで取らないの?」と聞くと、「だって飛車で取られるから」と言います。でも最初に歩を取っているので、これは「駒の交換」「なのです。また取らないと、歩が自分の陣地に成ってきてもっと悪くなってしまいます。

ただこの頃の心理として「自分の駒を取られてしまう恐怖感」があるように思います、取られても取り返せば「駒の交換」、将棋は駒の交換をしながら進行していくので、駒の交換ができるように意識していきます。玉一枚だけの駒落ちだと駒の交換はできませんが、「歩」をつけた駒落ちにはなります。10枚落ちでは「歩の交換」の要素がでてきます。

最後に「考えて将棋が指せる」段階の子どもたちについてですが、「考えて将棋が指せる」とはここでは振り飛車または居飛車の戦法を知っていると定義しておきます。ここまでくれば、将棋初心者といえども、最初にあげた「駒の動かし方とルールを覚えたばかり」の子どもたちとはだいぶ違ってきます。私はこの段階の子どもたちと対局をするときは「トンボ(玉と飛車角と歩9枚)」と呼ばれる駒落ちを最近取り入れています。

考えて指せる初心者の子どもたちには「とんぼ」と呼ばれる駒落ちを
考えて指せる初心者の子どもたちには「とんぼ」と呼ばれる駒落ちを

序盤は平手のような出だしになるので「振り飛車」「居飛車」という二つの戦法を試すことができるのがいいですね。この駒落ちでは、自分が覚えた戦法(居飛車または振り飛車)を選び、そして玉を囲ってもらいます。その後攻めの銀を5段目に繰り出すして「理想型の陣形を作る」という序盤の基本を教えます。相手の陣地を突破できると、玉のまわりに「玉のボディガード」の金がいない上手玉は、そこまでてこずらずに捕まえることができます。

子どもたちには、トンボを通じて序盤の理想的な駒組みができる技術を身に付けてもらえればと考えています。

2.考えるためのヒントを出す

将棋初心者の子どもたちは何を目標に指していいのか分からない
将棋初心者の子どもたちは何を目標に指していいのか分からない

たとえ将棋を始めたばかりであっても、まずは自分で考えて指すということが大切です。でもいきなり「じゃ考えて指そうね。」と言っても「何を目的に指していいのか分からない」というのがあります。最初から「玉を捕まえる」を目的にするとゴールが遠すぎて、目の前の一手を指すことができません。

ですので、ヒントをだしながら考えてもらうように心がけています。子どもたちに「ここの銀を動かそう」とか、「その歩を取ろう」とか具体的な指示をだすのではなく、例えば「この駒を成るにはどうしたらいいかな」や「どこから敵陣を突破するといいかなぁ」といった思考の糸口となるようなヒントを出します。そうすることで、同じような局面が出てきた時に自然とどのように対処するればいいか思い浮かぶようになると思うからです。

3.子どもがイメージしやすい例えで説明する

飛車の利きは子どもたちにわかりやすくビームに例えて
飛車の利きは子どもたちにわかりやすくビームに例えて

大人になるとどうしても物事を論理的に説明しようとしてしまいますが、子どもたちに何かの説明をするときには、論理性よりも「分かりやすさ」を重視した方が伝わります。指導対局の場合、私はとにかくたとえ話をよく使います。例えば「相手のと金は早めに捕まえた方がいい」ということを伝えたい時に、と金になると動けるマスの数が○マス増えるから・・・・・・、長々説明するよりも、相手のときんはゴキブリのようなものなので繁殖すると大変だから早めに捕まえましょう!、と伝えた方が、将棋初心者の子どもたちには、相手のときんが自陣に侵入してきたときのピンチ具合がよく伝わるように思います、笑

他にも、相手の玉が一段目にいるとき、自分の龍も1段目に置いて「王手」をするより、二段目においたほうがいいですね。そんなときは、龍の横利きを「このビームが利いているほうが、相手の玉は上に逃げられなくなっているよ。ほら逃げてみようか、アチチ!ほらあぶない。この玉はビームが利いているから上に逃げることができないね。」という感じです。多少演技力も必要ですね(女優になった気分で?!)。他には、相手の玉に迫っていかないといけない局面で、自玉の近くの駒を意味なく動かしている手を指しているときは「あら、これは戦いが始まっているのに、ゆっくりこたつでお茶飲んでいる感じだよ。」なんて言います。

そんな感じで、子どもがクスッと笑ってくれて、イメージがつきやすように説明すると楽しいかなと思います。教えている私ももちろん楽しいです。

4.事前に目標を決めておく

指導対局の前に目標を決めておくと、子どもたちの闇雲に指す手が減るかも
指導対局の前に目標を決めておくと、子どもたちの闇雲に指す手が減るかも

1番でも少しお話ししたように、将棋初心者の子どもたちの将棋には、何をしていいのか分からず、闇雲に駒を動かすということがよくあります。

そこで、指導対局の前に「今日は駒を成ってみよう」や「今回は銀を五段目まで上がってみよう」と、子どもたちの棋力に合わせて事前に目標を立てておくようにします。すると、少なくとも「駒を成るにはどうすればいいかな」「銀を五段目まで上げるにはどうすればいいかな」といった大まかな指針を持って対局に臨むことができるので、闇雲に指すような手は格段に少なくなるように思います。

5.勝たせてあげる

初心者の子どもたちに勝つ喜びと同時に勝負の厳しさを教えるのが将棋の講師の役目の1つ
初心者の子どもたちに勝つ喜びと同時に勝負の厳しさを教えるのが将棋の講師の役目の1つ

将棋初心者の子どたちの指導対局をする上で、大切にしていることは、子どもたちに「勝つ」体験をしてもらうことです。

わざと負けるというということに違和感を感じる指導者の方ももちろんいらっしゃることかと思いますが、「勝つ喜び」を味わう、というのと、「勝ちかたの流れ」のようなものを知らないと、実際に「勝つ」ことをイメージしにくいからです。我流で覚えてしまった子どもの中で、相手の玉の素抜き(わかりにくいところから角で王手を狙うなど)しか狙って勝つことしかわかない子もいます。相手が気が付かなければと取って「勝ち!」という方法です。相手が覚えたての子だったら、これで勝つこともできますが、この方法は相手が少し将棋を知っている子だったら、まずひっかかりません。なので、将棋で勝つという方法は、相手が気がつかないように王手をかけて取っちゃう、という方法ではなく、自分の駒を相手の陣地に持っていて協力して攻める、そして相手の玉を「もうどこにも逃げられない。」という詰みの状態にして勝つんだよ、ということを、指しながら体験してほしいという思いもあります。

また、わざと負けるといっても、自ら玉をどんどん前に出して「王様捕まえてくださ〜い」とするのでは決してないです。例えば、玉を隅に寄せて詰めやすくする(上部に逃げないなど)、子どもたちの大切な駒は取らないといった工夫をして、負けに行くのではなく子どもたちが勝ちやすいように手助けする感じです(^ ^)

上手な負け方についてはこちらで詳しく説明していますのでご参考になればと思います!

とはいえ、将棋とは本来「助言禁止」の競技です。実際の対局では誰もヒントを出してくれないですし、相手は全力で勝ちにくるはずです。ですので、私の場合、指導対局の際に「アドバイスを出した」「アドバイスを出していない」ということは必ず記録に残すようにして、昇級の際はアドバイスなしで勝てることを条件にしています。

さて、今回は将棋初心者の子どもたちと指導対局を行う際に私が心がけているポイントについてお話しさせていただきましたがいかがでしたでしょうか。5番でお話ししたように、基本的には指導対局を通じて子どたちに勝つ体験をしてほしいので、子どもたちが勝つためのヒントを出したり、簡単に負けないようにサポートしているわけですが、将棋初心者の子どもたちが「もう負けても将棋を嫌いにならないな」というくらいになれば、それは脱初心者に向けての第1歩を踏み出した証。自転車の補助輪を外すごとくこうしたサポートも少しずつ不要になります。そうなれば、「負けてあげる必要」はなくなります。存分に指導者の力をだして、いい勝負ができる手合で勝ったり負けたりしてほしいと思います。

いつつ将棋教室では、上記のことを意識しながら子どもたちの指導対局を行なっています。

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この記事の執筆者中倉 彰子

株式会社いつつ代表取締役、女流棋士。女流アマ名人戦連覇後、94年高校3年生で女流棋士としてプロデビュー。プロとして公式戦を戦うだけでなく、NHK杯将棋トーナメントなどテレビ番組の司会や聞き手、イベント司会などでも活躍。私生活では3児の母親でもあり、育児と仕事の両立に奮起。2007年日本女子プロ将棋協会設立に参画。事業部長として、地域や子どもたちに長く親しまれるイベント作りを心がけている。子育てエッセーを地方紙7新聞に連載し、近年は将棋と知育・育児を結びつけるような活動を広く展開。2015年10月株式会社いつつを設立、代表取締役に就任。女流二段。法政大学人間環境学部卒。@AKIKOPDG

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